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香港蜜月24
「では周焔さんにはディーラーの側に居ても不審に思われないよう、フロアの黒服役に化けていただきましょう。初老の紳士に見えるように髪を銀髪にして、肌にも年齢を加えるようにメイクします。それから……ディーラー役になる冰さんでしたか? 彼のヘアスタイルも少し弄らせてください」
冰には先にディーラーの服に着替えてもらうとして、その間に周を初老の男に変えるべくメイクを施していく。その手際の良さには目を見張るばかりだ。さすがに世界のファッションショーの舞台でレイ・ヒイラギのメイクを担当しているだけあって、早技にも息を呑む。みるみる内に周は別人のような老紳士へと変貌を遂げた。
倫周が続いて冰のヘアスタイルをディーラーらしく整えている側で、今度は鐘崎からも変装の提案が持ち出された。
「まだ時間はあるな。すまないがこいつの変装も頼めるか?」
鐘崎は、自らはテーブルの近くで警護に当たるとして、伴侶の紫月をレイと共に賭けに参加させたいと言った。イカサマ師とその仲間を取り囲むように客の中にレイと紫月を配置すれば、より強固な態勢が敷けるだろうというわけだ。
「こう見えて紫月は体術にも長けている。取り押さえる時に仲間は一人でも多い方がいいだろう」
そう、紫月は幼い頃から実家の道場で鍛錬を積んでいるので、何かの役に立てるかも知れないというのだ。
カジノにとっても乗っ取りのかかった突然の事態にあって、皆が心を砕いてくれる。隼はもちろんのこと、周も兄の風も皆のそんな厚情が身に染みて有り難く思えるのだった。
そんな中、紫月を一目見たレイが「うーん」と首を傾げながらポツリと呟いた。
「えらく綺麗な男だな……。おい、倫周、彼を女性に変装させられるか?」
「――え!?」
皆が驚いたようにしてレイを見やる。
「野郎ばかりが周囲を固めるんじゃ怪しまれないとも限らねえ。美女が一人入れば周りのギャラリーたちは少なからず気を取られる。隙ができることで、敵にとってはやりやすくなって油断を引き出せる。紫月といったか、この彼には女装してもらって、俺の女として賭けに参加してもらうってのもオツじゃねえか」
突飛な発想だが、確かに奇を衒ういい考えではある。とかく、鐘崎にとっては眉根を寄せてしまいそうな提案ではあるが、作戦としては悪くない。
「了解だよ、レイちゃん! 彼、元が美男子さんだからね。とびきりの美人に仕上げてみせちゃう!」
倫周が任せてよとばかりにガッツポーズで意気込みをみせる。父親を”ちゃん”付けで呼ぶのには驚かされるが、この父子にとってはそれが通常なのだろう。いつまでも若々しいトップモデルは、”お父さん”と呼ばれるよりも友達感覚の方が心地好いのかも知れない。
「じゃあ、紫月さん用のドレスを急いで調達してください!」
言うが早いか、すぐに紫月の変装に取り掛かる倫周だった。
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