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香港蜜月26
「どうだー、俺、美女に見えるか? ……じゃねくて、どうかしら、アタシ美人?」
ほほほ――と、腰までくねらせながら、すっかり女性言葉も板に付いている。
「見てちょうだい、この谷間ちゃん! めちゃくちゃグラマーでしょうが!」
ユサユサと豊満になった胸元を揺すっては、色っぽい声色で悩殺ポーズまでサービスするオマケ付きだ。案外脳天気なところのある紫月は、早速役になりきって張り切っているようだ。彼もまた、周と冰同様に、緊急時に緊張を度返しすべく、おどけていられる大きな器を持っている男といえるのだろう。それでこそ裏の世界で右に出る者はいないといわれる鐘崎組の唯一無二の”姐”なわけだ。
「いや、これはすごい……! 香港中捜してもこんな美女には滅多にお目に掛かれんぞ」
周の父親たちも驚いたように目を見張っている。伴侶である鐘崎も勿論のことで、誰かに惚れられやしないかと別の心配が湧いてしまいそうな顔付きで苦笑気味だ。そんな彼の様子にレイ・ヒイラギがクスッと笑いながら言った。
「お前さん方、いい根性してるぜ! 揃いも揃って、この状況で余裕ぶっこいていられるんだからな。この雰囲気なら、絶対成功すること間違いなしだ」
こういう時こそ変に緊張せずに、リラックスした和気藹々の体制で挑めることが何よりなのだ。それもこれも互いに信頼し合える仲間が側にいるという安心感があるからこそといえる。
「それよりお前さん、リョウイチ・カネサキの倅 さんだってな? 僚一には俺のボディガードをやってもらった縁で世話になったことがあるんだが、こんな立派な倅がいるとは驚きだ」
紫月にぴったりと寄り添っている鐘崎に、レイがそう話し掛けた。
「恐縮です。俺もレイさんのことはよく父から聞いておりました」
そうなのだ。まだ鐘崎が子供の頃の話だが、周の父親からの伝手で、父の僚一がレイのボディガードを引き受けたという話を聞いたことがある。鐘崎自身はレイに会うのは初めてだったが、モデルとしての彼の活躍は知っていたし、何だか初対面の気がしないといったところだった。
「レイさん、こいつのことよろしく頼みます」
紫月の肩に手を添えながら丁寧に頭を下げる。
「ああ、任せておけ。さっき隼から聞いたが、お前さんら二人は祝言を交わした仲だそうだな?」
「はい。俺たちは男同士ではありますが、こいつは俺の代え難い存在です」
「なるほど。いい男にはいい伴侶がつくものだ。僚一も鼻が高いことだろう」
「――恐縮です」
「少しの間紫月を借りるが、お前さんも近くで警護に当たってくれるなら安心だ。頼りにしてるぜ」
「ええ、その点は抜かりなく」
そんな話をしている中、フロアから間もなくショータイムが終了するとの報告が入ってきた。
「よし、それじゃ賭けを再開する。冰、それから皆もよろしく頼む」
隼の号令で、一同は決戦の舞台へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
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