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香港蜜月27
ゲームの再開が告げられると、待っていたとばかりに帽子の男たちがルーレットのテーブルへと戻って来た。面子は先程までと同じで、帽子の男の左隣に仲間らしき女が一人、右隣から一つ置いて別の男が陣取っている。おそらく彼らが磁気の操作をする係で間違いないだろう。
彼らから三つほど離れた位置に紫月をエスコートするようにしてレイが座る。背後には賭けの様子を見学する客を装った周ファミリーの精鋭たちと鐘崎がガードを固め、配置が完了した。
「ディーラー交代致します」
老紳士に化けた周が冰に付き添ってブースへと入る。一気に緊張が高まった。
「お待たせ致しました。では皆様、お賭けください」
しなやかな仕草で冰が促すと、帽子の男は早速に大きな金額で勝負に出てきた。予期せぬイベントショーで一時間も待たされて、さすがに焦れているのだろう。彼らとしては、さっさと稼いでカタをつけたいのだろうことが窺えた。
帽子の男が賭けたのは赤の七番だった。仮にし勝ったとすれば、配当率が最も高い一点賭けだ。やはり早々に勝負を決したいのと、確実に勝てる自信があるということだろう。
それを見ていた周囲の客たちもそれぞれ思うところにチップを置いていく。皆に続くようにしてレイと紫月も適当な位置に賭けることにした。
「さっきはそちらの紳士に連続で持っていかれちまったからな。俺はツキが落ちちまってるだろうから、お前に決めさせてやる」
レイが紫月の肩を抱いてそう振りながら、さりげなく嫌味を交えつつも帽子の男のツキを讃えるように絶妙な言い回しで苦笑してみせる。すると、男の方もイカサマだということを気付かれていないと思ったのか、『いやいや、たまたま運が良かっただけですよ』などと調子づいた返事をよこす。そんな様子を横目に、紫月はわざと色っぽい声色の女言葉で賭けの場所を指定してみせた。
「それじゃアタシは黒の十三番にお願い」
すると、周囲の客からは『おお!』とザワついた声が上がった。世間一般的にはあまり縁起のいい数字とはいえない上に、帽子の男とは対極ともいえるナンバーだったからだ。
紫月らの目的としては、とりあえず帽子の男が賭けた位置とは別の適当な箇所を言えばいいだけなので、好きな数字を指定したまでなのだが、黒の十三番とはまた思い切ったものだ。
「おいおい、いいのか? もっと可愛い――そう例えば赤の一番とか、せめて十二番 とかにすりゃいいんじゃねえか?」
レイがからかうように笑う側で、
「あら、アタシが決めていいって言ったじゃないの。アタシの男は最高にイイ男なんだけれど、彼を色に例えるとすればイメージは黒なのよ。彼はアタシにとって唯一無二のキングだしね。だから黒の十三番にしたの。これ以上ない幸運の番号じゃなくて?」
うふふと軽いウィンクまで飛ばすオマケ付きで紫月は笑った。
それを聞いて、冰は思わず笑みを誘われてしまった。アタシの男というのは鐘崎のことを言っているのだと分かるからだ。つい先刻も、紫月が鐘崎に似合いだと言って黒いダイヤのアクセサリーを選んでいたことも知っているので、何だかとてもあたたかい心持ちにさせられてしまった。
そんな紫月は、群を抜く美麗な容姿で、レイが睨んだ通りに周囲の視線を釘付けにしている。ゲーム同様、”彼女”に目を奪われて気が散漫になっている者たちも出ているようだ。
そして、何よりきっと緊張しているだろう冰に平常心でいられるよう、彼なりのやり方で解してくれているようにも思える。冰にもそれが分かるから、しっかりとその応援の気持ちを受け止めたのだった。
「では、皆様よろしいでしょうか。只今を持って賭けを締め切らせていただきます」
落ち着いたテノールの声がそう告げると同時に、運命の瞬間に向けてのターンが幕を上げた。
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