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香港蜜月34

 息もできないほどにむさぼるようなキスの嵐がとめられない。濃厚に唇を重ね合い、いったいどのくらいそうしていたのだろう。一通り奪ったことで落ち着きを取り戻したのか、周は腕の中の冰をようやくと解放すると、今一度額に――今度は敬愛を込めた口付けを落とした。 「すまねえ、つい我慢がきかなかった……」 「白龍……ったら……さ」 「何だろうな、不思議な気分だ。今夜のお前は――俺が知らなかった大人びた一面がひどく新鮮で……ガラじゃねえが本当にヤバい気持ちだ……」  一般的には”ドキドキがとまらない”――などという表現で合っているだろうか、周にとってこんな気持ちは初めての感覚なのだ。 「それなら俺だって……同じだよ……? 何て言ったらいいのか……未来の白龍と一緒にいるようで、白龍は白龍なのに……別の人と一緒にいるような気になっちゃったりしてさ。これって浮気じゃないよねって……俺、銀髪の白龍にときめいちゃって、悪いことしてるような気になっちゃった」  冰からもまったく同じ気持ちを聞かされて、周は普段は鋭い眼力のある瞳をクリクリとさせてしまったほどだった。 「そう――それだな! 俺も――お前なのにお前じゃねえ、誰か別の人間になびいちまってるような気にさせられた。もちろん普段のお前もめちゃくちゃ愛しいんだが――今夜の……ちょっと大人びたお前にも……その、な?」  あまり言い慣れない言葉だが、敢えて今の気持ちを言葉にするならば『胸がギュンギュンする』とでもいうのだろうか。とにかくは周も冰も互いの変装や、別の一面に触れたことで、初めて恋心を意識した時の気持ちが蘇ったような感覚に戸惑ってしまっていたのだった。 「冰――お前……まさかだが、歳食った俺に惚れちまった……なんてこたぁねえよな?」 「え……ッ!? え、いや……そんなことは……!」 「そうだろう? 顔真っ赤にして――そいつぁ、立派な浮気ってもんだ。正直に言わねえと仕置きだぜ?」 「……ん、もう! それなら白龍だって! 大人びた俺にときめいたとか、それってしっかり浮気じゃない?」 「俺は――浮気なんぞしねえ」 「えー、ホントかなぁ? 白龍だって顔赤いじゃん……!」 「んなわきゃねえ!」  仮にもマフィアの周に『顔が赤い』などと言えるのは冰くらいだろうか。たわいもないじゃれ合いの後、二人はタジタジとしながら挙動不審な様子で視線を泳がせ合っていることにプッと噴き出してしまった。 「大人びたお前も可愛いお前も――どっちもお前だ。浮気とは言わねえ」 「ん、まあ……そうだよね? 若い白龍も老紳士な白龍もどっちも……うん、カッコイイし……」  えへへ、と頬を染めた冰をもう一度強く腕の中へと抱き締めた。 「冰――」 「ん?」 「好きだ――どんなお前も、お前がお前である限り、全部が魅力だ」 「白龍ったら……さ」 「さ――、それじゃ風呂にでも浸かって、元の俺たちに戻るとするか」  銀髪と加齢メイクを洗い流し、若返る。それはそれで、また冰に新鮮な気持ちを抱かせることだろう。二人は仲良くバスルームへと向かい、のぼせるほどに熱い愛を紡いだのだった。

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