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狙われた恋人13
「その商社の経営者は俺だ。冰が俺の秘書をしていることは知らなかったか?」
周が訊くと、通話の向こうからは『グッ……』と押し殺したような声の気配が伝わってきた。
「……あんたの会社だって?」
張の様子からは初めて知ったのだろうことが窺えた。
「そういうことだ。冰は返してもらう。スカウトへの返事もノーだ。既に香港からファミリーがマカオへ向かっている。あんたらが到着次第、冰をこちらへ渡してもらうぞ」
「……ッ!?」
よほど驚いたのか、まともな返事ひとつままならない様子だ。周は更に畳み掛けるように言った。
「冰に指一本触れてみろ。その時は貴様を地獄へ送ってやる。俺はやると言ったら必ずやる。これは脅しじゃねえ」
決して怒鳴っているわけではないのだが、地を這う大蛇のような静かな中にも寒気がするような低いバリトンは、周りで聞いている者たちでさえゾクッとさせられるほどのものだった。通話相手の張にしてみれば、それ以上だったことだろう。案の定、彼は素直に諦めの言葉を口にした。
「……ッ、分かった。雪吹君はお返しすると約束しよう。まさか彼が周さんの縁者とはな……。知らなかったということで勘弁してもらえると有り難い。だが――さすがに周一族だな。……情報が早い」
冰を拉致してから、まだほんの数時間だ。それなのにもうファミリーの手が回っているとはさすがに思わなかったようだ。
「分かればいい。あんたとの話はこれで終わりだ。冰の無事を確かめさせてもらうから、通話口に出せ」
張は仕方なく言われた通りに従うしかなかった。
通話口に出た冰の声の感じからは、周が心配していたような最悪の事態になっている様子は見て取れなかった。口調も割合しっかりしていることに安堵する。
「冰、無事か!?」
「う……うん、俺は平気。それよりごめん……心配掛けちゃった……」
「お前は何も悪くねえ。心配せずに待っているんだ。必ず助け出す」
「ありがとう。本当に……ごめんなさ……」
「俺たちも今、お前の乗ったジェットのすぐ後を追い掛けてる。香港の親父と兄貴も既にマカオの空港に向かっている。すぐに迎えに行くから、もう少しの辛抱だ」
周らも既に機上にいると聞いて、冰は驚きつつもひどく安堵したようだった。若干、口数が少ないようにも思えるが、敵の前ではやたらなことを喋らない方が賢明と思っているのだろう。こんな事態にあってもできる限り落ち着いて判断をしようとしている様子がありありと伝わってくる。周は不憫な目に遭わせてしまったことを痛みながらも、一刻も早く助け出してやりたいと心底思うのだった。
「さあ、もういいだろう? この通り雪吹君は無事だ。あとは到着後にあんたらに引き渡すだけだ」
張が電話を取り上げたのだろう。冰との会話を終えた周は、今一度冰の安全を約束させてから、一先ずの通話を終えた。
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