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狙われた恋人39

「だが、まあ……それにしたってお前の技は本当にすげえってことだ。張が興味を持つのも分かるってもんだ」 「白龍ったらさ」 「それに……俺たちが張の邸を訪ねた時の芝居も見事だった。毒矢のことを知らせてくれた方法も、あんな状況で咄嗟によく思い付いたもんだって、カネのヤツも源次郎さんも感心しきりだった。カネなんかお前がエージェントならめちゃくちゃキレ者になるだろうなんて冗談言ってたくらいだしな」 「ええッ!? ……鐘崎さんがそんなことを?」 「ああ。俺の側に置いておくのはもったいねえくらいだなんて言いやがって」 「あははは……! 鐘崎さんにそんなふうに思ってもらえたなんて俺も案外捨てたモンじゃないってことだったりして?」 「バカ言え! 誰が捨てたりするか。例えお前がキレ者だろうとそうじゃなかろうと、お前は俺にとって唯一無二の命だからな。絶対に離しゃしねえ」 「白龍ったら……さ。過大評価し過ぎだよ」 「そんなことはねえ。お前がどれほど大事かってことを――もっとちゃんと教え込んでおかなきゃいけねえな」  そう言った周の声音は甘みを帯びていて、次第に色香がまじっていく様子が抱き包まれている冰にもダイレクトに伝わっていく……。明らかな欲情の印でもあった。  そっと、背後から回り込むようにして唇が耳たぶを掠る。 「白龍……」 「ゆっくり休ませてやりてえが、できそうもねえな」 「ん、うん……俺も……!」  そのまま逸るようにベッドへと向かうと、どちらからともなく互いの唇を貪り合った。 「この服は大事に取っておかなきゃな。お前が全身全霊を込めて伝えてくれた何より大事な宝物だからな」  周は言葉通り丁寧にボタンを外していった。 「うれしかったぜ、冰……。この紋様を見た時は心臓が震えた。こうしてお前に触れて抱き締めている以上にお前を近くに感じた」 「白龍……」 「こういうのを言葉で表現するにはどう言えばいいんだろうな……魂と魂が触れ合ってるっていうのか、例え身体が離れていても誰よりも何よりも強く激しくお前と重なり合っていられる。そう、これだ。一心同体」 「一心同体?」 「ああ。俺たちは今、一心同体でいるんだと心からそう思った。例え言葉を交わさずとも、お前が俺を想ってくれているってことが確信できた。どんなにうれしかったか分かるか?」  そう、昼間は張の邸で兄弟喧嘩の芝居をし、言葉の上では張の元に残りたいと言い張った冰を、そのまま邸に残して帰るのがどれほど苦しかったことだろう。例えそれが芝居だと分かってはいても、少なからず心は揺れた。  冰というこの世で一番愛しい者を賭けの対象にし、万が一上手く取り戻せなかった時のことを想像すれば、全身を掻き毟られるようだった。ザワつく気持ちと闘いながら、最終的には戦争をしてでも取り戻すと決意を固めた。夜がくるまでのたった半日が千秋のように思えてもいたのだ。  そんな中で、冰が背中の紋様に込めてくれた龍の図柄の意味を知った時の気持ちは、言葉などでは到底言い表せない。身も心も打ち震えるような激しい高鳴りが全身を押し包み、仮にしこの場で召されても悔いはないと思えるほどの感動が貫いた。  そんな気持ちを込めて、周は今、腕の中に戻ってきた恋人を隅から隅まで実感すべく、ありったけの想いを込めて抱き締めたのだった。

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