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狙われた恋人40

 そして、それは冰の方にしても同じだった。  限られた時間の中で懸命に考えた賭けの位置を知らせる手段。  はたしてこれで伝わるのだろうかという不安を抱えながらも、慣れない裁縫に一針一針心血を注いだ。その想いが実を結び、この世で一番愛しい男が『黒の四番』と告げた時の声を一生忘れることはないだろうと冰は思っていた。  そんな彼は丁寧に脱がした服をより一層丁寧にベッド脇のソファへと置く。背中の紋様を一生懸命に作った思いを尊重してくれているからだろう。その仕草に計り知れないほどの愛情を感じながら、胸の奥底からじんわりと大きさを増していく熱い気持ちが涙となって冰の双眸からあふれ出した。  互いに一糸纏わぬ姿になり、愛しい男が自らを抱き包む。その幸福感を噛み締めながら冰は言った。 「ね、白龍……我が侭言っても……い?」 「――? 何だ。何でも言え。どんなことでも聞いてやるぞ」 「ん、それじゃ……」  冰はモゾモゾと逞しい腕の中で起き上がると、周の硬くなり掛けた雄に向かって顔を埋めた。 「冰……!?」 「白龍を感じたいんだ……。多分、すごく下手だと思うけど……ごめん。でも……」  どうしてもしたいんだ!  たどたどしいながらも懸命に雄を口に含んで舌先を動かす。いつもは周によってもたらされる行為だが、自らそうしてみることで堪らない愛しさが込み上げた。 「……冰、無理をするな」 「無理なんかしてない……すごく……幸せ……なんだ。白龍にこんなふうに……させてもらえる自分が信じられないくらい幸せ……!」  頬を真っ赤にしながら瞳を潤ませてそんなことを言われれば、周もまた我慢などできようはずがなかった。  決して上手いとはいえない慣れない愛撫が、逆にとてつもない快感となって身体中を熱くする。 「お前……本当に俺を(ほむら)にする気か」  吐息まじりに周は言うと、股間に顔を埋めている愛しい者の髪をクッと掴んで撫で回しながら、ゾクゾクと押し寄せる快楽の波を味わった。 「冰……!」  それ以上待てずに周は華奢な腕を取ると、そのまま冰を自分の腹の上に抱え上げながらシーツの海へとダイブした。  そこから先はもうどんなふうに愛したのかも覚えていないほどに組んず解れつで激しく互いを求め合った。白い肌に真っ赤な口づけの跡を散らし、これ以上くっ付けないというくらいに身を寄せ合い、髪の一本から爪先まで、どこひとつ余すところなく貪っていく。張の邸を訪ねた直後に盗聴器から聞こえてきた会話を聞いた際に、半ば冗談で言った『戻ったら抱き潰す』という言葉の通りに、周は愛しき者を意識が遠のくまで愛し尽くしたのだった。

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