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ワンコ輪舞曲3

 そして次の日――。  ブランチを終えた周と冰は、張から贈られた着ぐるみを持って鐘崎組を訪ねた。もちろん、紫月の大好物のホテルラウンジのケーキも忘れずに買って行く。組に着くと、紫月が楽しみにして待っていてくれた。  週末の連休だが、若い衆の姿も多く見られ、幹部の清水や橘など邸の敷地内に住み込みの者もいるので、鐘崎組は相変わらず賑やかである。  若い衆らがビシッと腰を九十度に追って出迎えてくれる中、周は威風堂々と彼らに軽く会釈で応えて歩く。冰の方は鐘崎組を訪ねるのは初めてだった為、まさに極道の邸といった雰囲気に息を呑みつつも、「お邪魔致します」と、若い衆一人一人に丁寧に挨拶をしながら玄関をくぐった。 「冰君! よく来てくれたなぁ! 待ってたぜ!」 「紫月さん! こんにちは! あ、これ例のお店のケーキです」  厳つい男たちの中を通って来たからか、紫月の笑顔を見ると同時にホッと胸を撫で下ろす。 「うは! さんきゅなぁ! いっつも悪ィなー。今、茶ー淹れるからさ!」 「ありがとうございます!」 「お! もしかしてそれが昨夜言ってたやつか?」  冰が抱えていた大きな袋を見て紫月が訊いた。 「そうです、そうです! すごく本格的な着ぐるみなんですよー」 「わ、マジ? どれどれ」  相変わらずに”嫁”同士、仲がいいことである。会うなり早速におしゃべりに花を咲かせ始まった。  すっかり蚊帳の外状態の周の方には、ゆったりとした貫禄を見せつつ旦那である鐘崎が出迎えてくれた。 「マカオの張から何やら送られてきたんだって?」 「ああ、カネ。休みのところすまねえな。何でも等身大の着ぐるみだとかで、冰がえらく乗り気なもんでよ。お前と一之宮に届けてえって始まったんだ」 「構わん。紫月も冰と会えるのをいつも楽しみにしてるからな」  鐘崎は紫月たちが見渡せる窓際のソファへと周を案内しながら笑った。 「で、その張の方はどうなんだ。親父さんから預けられたシャングリラの運営も上手くやってるのか?」 「ああ、順調のようだぜ。香港の親父からも報告が来ていたが、思った通り張の手腕はなかなかのものだそうだ」 「そうか。そりゃ良かった。冰が拉致された時はどうなることかと思ったが、その拉致犯である張を懐に入れて、懐柔しちまうところはさすがに親父さんだな」  旦那組の方の話は、やはり世情や経済についての話題が多い。しばしお茶で喉を潤した後、キャッキャとはしゃぐそれぞれの恋人を横目にしながら、そろそろ相手をしてやるかといったふうに立ち上がった。

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