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ワンコ輪舞曲4
「どれ、それが例の着ぐるみってやつか?」
鐘崎がそう声を掛けると、既に自分の分を選んだらしい紫月が着ぐるみを胸前に当てながら着替え始めるところだった。
お茶を出しに来た幹部の清水らも既に下がっていたことだし、部屋には四人きりなので、気兼ねなくチャッチャとズボンを脱いで着ぐるみに脚を突っ込んでいる。
「なぁ、遼! 俺はこの柴のをもらうことにした! これ、成犬っつーよか仔犬のタイプだろ。すっげ可愛いわ!」
側では冰も白い毛足が長い着ぐるみに着替え中だ。どうにも不器用そうにオタオタやっているのを見かねて、周が苦笑しながら手伝いに立ち上がった。
「ほれ、持ち上げててやるからまずは脚から入れろ。片方ずつゆっくりやりゃいい」
「あ、うん! 白龍、ありがとう!」
着ぐるみはオールインワンタイプの上、特に冰のは毛足が長くてモコモコしている為、なかなかに着脱が大変なのだ。
「うはぁ、フッサフサのモッコッモコじゃん! どうだ、これ! 似合うべ?」
一足先に着替え終えた紫月が姿見の前で感嘆の声を上げている。耳付きのフードを被れば、まさに仔犬の出来上がりである。
「クゥーン、クゥーン、ワン! なんつってー」
両手で引っ掻く仕草をしながら鐘崎の胸板へと飛びついていく。それを見ていた周も羨ましく思ったのか、せっせと冰のファスナーを上げてやって、着替えを完成させていった。
「おい、冰。お前も来い。思いっきり飛び付いていいぜ?」
両手を広げて早く飛び込んで来いという仕草で笑う。冰は恥ずかしそうにしながらも、紫月らに触発されたのか、思い切って自分を待っている主人の胸板へと飛び付いた。
ドーン、とモコモコの塊を受け止めながら、周も満更ではなさそうだ。
「おお、威勢がいいな!」
ギュッと両の腕で抱え込めば、確かに抱き心地は最高である。
「ねえ、白龍。スーツが毛だらけになっちゃうよ! 白龍たちも着替えようよ!」
残っているドーベルマンとシェパードの着ぐるみを指差しながら、ワクワクと冰は言った。
「……マジで俺らも着んのか?」
チラリと鐘崎を見やる。どうせ彼は興味を示さないか、当然嫌がるだろうから、あわよくば自分も着ないで済めばそれに越したことはないと思うわけだ。
ところが、である。意外も意外、鐘崎は案外平然とした様子で、サッサと着ていた服を脱ぎ始まった。
「どっちも似たようなもんだな。おい、氷川。お前はどっちにするんだ」
残った二着を手に取りながらあっけらかんと訊いてよこす。
「遼にはこっちだな! シェパードならウチにもいるし、何つっても顔が遼に似てるわ! 如何にも強くてカッコいいって感じじゃね?」
紫月がうれしいことを言ってくれるので、鐘崎は迷いなくシェパードを手に取った。
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