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ワンコ輪舞曲6

「そうだよ。すっげ頼りになる番犬なんだぜ! いつも中庭で放し飼いしてんだ」  紫月が説明しながら庭へと降りて犬たちの頭を撫でると、彼らはちぎれんばかりに尻尾を振って『ウォン!』と凛々しい声で応えてきた。 「すごい! 皆カッコいいねー! 俺が撫でても大丈夫かな……?」  体格のいいシェパードたちを見つめながら、興味はあれども恐る恐る尋ねる冰に、 「大丈夫だよ! 皆、こう見えて賢いヤツらだから。冰君も降りて来いよ!」  紫月に手招きされて冰が縁側から降りると、犬たちにも彼が主人の大事な客だと分かるわけか、野太い声から『クゥーン』という甘え声になって、礼儀正しくお座りで迎えてくれた。 「うっわ、可愛いー! 本当に皆、ハンサムさん揃いだねぇ」  静かに並んで冰に頭を撫でてもらえるのをちゃんと待っている。 「よし、そんじゃ中庭に出て皆で記念撮影でもすっか!」  鐘崎の意外な提案に、周は思い切り眉根を寄せてしまった。 「おいおい……庭に出んのか? この格好でかよ」 「うはぁ、うれしいなぁ! 白龍も早くおいでよ! 今日はお天気もいいし、気持ちいいよー!」 「お! いいねえ! 記念撮影するべ、するべ!」  周以外の三人は大乗り気である。 「なあ、おい、カネよぉ……。若い衆もいんだろうが。てめ、そんなカッコで恥ずかしくねえのか……って、おい! 聞いてねっだろ!」  鐘崎は早速どこからかカメラを持ち出してきて庭へと降りていく。 「おい、誰かいるかー? ちょっとシャッター押してくれねえか?」  しかも自ら若い衆を呼び付けているではないか。 「……ったはぁ……。ダメだ、こりゃ」  もう何を言っても通じそうもない。周は頭を抱えながら、深い溜め息を連発してしまった。 「わ、若……ッ!?」 「ど、どうされたんスか……その格好……」  案の定か、呼び付けられて飛んで来た若い衆らが目を丸くしてあんぐり顔だ。だが、鐘崎は物怖じすることなく、鼻息を荒くしながら両手を腰に当てて『ウンウン』とうなずいてみせた。 「これは大事な国際交流の一環だ」 「……こ、国際交流っスか……!?」 「おう! どうせこの写真を張に送ってやるんだろ? そいつを見りゃ、着ぐるみを贈った張も喜ぶだろうが」  確かに一理ある。  張がこの写真を見れば、贈って良かったと喜んでくれるだろう。果ては、互いの間の絆と信頼が強固となり、任されたカジノ経営にもより一層精を出すというものだ。  周はそんな鐘崎を見つめながら、 「は……、器がでけえってのか。てめえにゃ負けるぜ」  苦笑しながらも、こんなふうにさりげなくもこちらの立場まで考えてくれる親友に、堪らなく誇らしい気持ちがあふれ出すのだった。 「よっしゃ! それじゃ皆で」 「はい、チーズ!」  本物のシェパードたちに囲まれながら、紫月と冰はとびきりの笑顔で、鐘崎は自らも飼い犬に負けじとシェパードらしく得意顔で、そして周は片眉をしかめながらも隠しきれない照れに頬を染めての直立不動、人形状態の顔が何とも微笑ましい。  和気藹々、最愛の恋人と最高の仲間たちの楽しげな声に囲まれながら、賑やかしい春の午後を満喫した一同であった。  その後、写真を受け取ったマカオの張が喜んだのは言うまでもない。それと同時に、一緒に写っている鐘崎家のシェパードたちを冰が飼っている犬だと思ったらしい張から、今度は正真正銘犬用の服がたんまりと送られてきたのはご愛嬌である。  一方、鐘崎組の若い衆らの間では、『ウチの若はめちゃくちゃグローバルなお人だ』という噂が広まり、これまでにも増して若頭に対する憧れと尊敬の視線が集まるようになったとか、ならなかったとか。  とにもかくにも、幸福な花吹雪舞う春爛漫であった。 ワンコ輪舞曲 - FIN -  

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