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恋敵1

「――本当にいいのか?」 「それは……俺の台詞だよ。本当にいいの?」  週末の連休前の晩、夕食を終えてくつろいでいた周の部屋のリビングでの会話である。周焔と雪吹冰は大きなソファに横並びで腰掛けながら、風呂上がりの紹興酒を楽しんでいた。 「俺の方はいいに決まってる。香港の親父も継母も、それに兄貴夫婦も満場一致で快諾だしな」 「うん……それはもちろん、すごく有り難いんだけど。でも……図々しくないかな。いくら何でもお父様の養子にしていただくなんて……さ」  二人が話し合っていたのは、冰が正式に周家の籍に入るかどうかということについてだった。  恋人として付き合うようになってからの年月としては確かにそう長くはない。だが、出会ってからは十二年余りだ。その間、周はずっと冰を気に掛けていたし、意識としては既に他人ではないのだ。 「もちろん、お前が雪吹の名を大事に思うのは分かっているつもりだ。だが、俺としては籍を同じくしたいってのも事実だ。何なら(あざな)に”雪”の()を入れてもいいんじゃねえか?」 「白龍、うん、ありがとう。俺は名前が変わるのは何とも思ってないんだ。ただ……周家の籍に入れてもらうなんて図々し過ぎやしないかなって、それが心配なだけ。ご家族はいいって言ってくれても、周囲の目もあるだろうし……」 「そんな気遣いは必要ねえよ。肝心なのは、お前がこれからもずっと俺と一緒に生きてくれるかってことだけだからな」 「それはもう……! 白龍さえいいなら、俺はずっと側にいさせて欲しいよ」 「だったら決まりだ。周家の籍に入ってずっと俺の側にいろ」  逞しい腕で肩を抱き寄せ、髪にそっと口づける。 「ん、うん……! ありがとう、白龍」 「ありがとうは俺の台詞だ。明日にも香港の親父に正式に返事をする。いいな?」 「うん」  父の隼から二人を生涯の伴侶として披露目をと言われてからひと月余り、毎日のように話し合って周と冰はその厚意に応えることを決めたのだった。  それから数日後、いつものように周と共に自宅のダイニングで夕飯をとっていた時だ。 「冰、今やってる締めの仕事を片付けたら一度香港に行くぞ。一応、来週の中頃にと予定している。披露目の日程や詳細について親父たちと打ち合わせをすることになってるんでな」 「あ、うん! お父様たちに言ってくれたんだ?」 「ああ、親父たちも手放しで喜んでくれてたぞ。継母なんか、もう大はしゃぎで大変だそうだ。俺はともかく、冰に着せる服は何にしようとか、引き出物はあれにしようとかこれがいいとか、実母と一緒になって毎日のようにあちこちの店を見て回っているらしい」 「お母様たちにまでいろいろとご足労掛けて……申し訳ないとも思うけど、でも……そんなふうに気に掛けていただけて嬉しいな」  ポッと頬を赤らめる冰を、周は愛しげに見つめていた。 「あと数日後だからな。お前も支度しておいてくれ」 「分かった! 白龍の下着とか着替えの服とかも用意しておくね」 「ああ。頼んだぜ、奥さん!」  ニッと頼もしげに微笑んだ周に、再び頬を染めてうなずく冰だった。

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