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恋敵25

「おや! キミはもしかして……写真に写っていた柴犬君じゃないかい?」  紫月を見るなり張は嬉しそうに握手の手を差し出した。周と鐘崎には会っていたが、紫月とは初対面だったからだ。 「どうも、初めまして。一之宮紫月といいます。その節は可愛い着ぐるみをありがとうございました」  紫月もフレンドリーに握手に応える。 「いやいや、こちらこそご丁寧に写真まで送っていただいて感激しましたよ! 皆さん揃って本当に着ていただけるなんて、思ってもみなかったよ。本当に嬉しかった!」  初対面の挨拶が済んだところで、冰は張に切り出した。 「あの、張さん。それでさっきのお話ですけど、それ、俺にも手伝わせていただけませんか?」 「さっきのって、イカサマカジノのことかい?」 「ええ、そうです」 「イカサマカジノ? ……って、いったい何の話だ?」  二人のやり取りを聞きながら、紫月は瞳をパチクリとさせてしまった。 「実は――」  冰は先程張から聞いた悪徳カジノを潰したいという話を端的にかいつまんで説明した。すると、勘のいい紫月はすぐに彼の考えていることを察してくれたようだった。 (なるほど。金の都合がつくかも知れないってそういうことか――)  つまり、張たち理事会が潰したいというそのカジノに乗り込んで、唐静雨という女が横領した五千万円を稼ぎ出すつもりなのだろう。神技級の腕を持つ彼だからこそ考え付きそうなことだ。 「でも雪吹君、手伝ってくれるというキミの厚意は有り難いが、今回はいくらキミでもどうにもならないんじゃないかな。さすがにその店でディーラーをやってもらうってわけにもいかないんだし」  張が難しい顔をする側で冰は微笑んだ。 「俺がディーラーをするわけではありません。今回は相手のディーラーさんと勝負をするんです」 「勝負って、キミがかい?」 「要は客側がカジノで大勝ちすればいいわけですよね? だから今回は俺が客になります。上手くすればカジノの持つ資金を少しでも吸い上げることができるかも知れません。それならば正攻法でその店を弱体化に追い込めますし、乱闘などが起きる確率も少ないと思うんです」  決意に瞳を瞬かせた冰に、張はようやくとその意図に気付いたのか、『なるほど』と言って瞳を見開いた。 「そうか……! キミならあのカジノのイカサマディーラーたちを出し抜けるかも知れないな!」 「ええ。ただ、これを成功させるには時間との戦いになります。カジノ側が異変に気付いて、一時クローズなんていうことになる前に、極力時短で大勝ちする必要があります」  いわば、相手に構えさせる余裕を与えてはならない。ほぼ一発勝負か、多くても二度か三度の対戦で金庫の金を吸い上げなければならず、これもまた、乾坤一擲の大勝負というわけだ。  綱渡りではあるが、成功すれば一撃で閉店に追い込める。案としては悪くはない。

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