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恋敵30

 時をさかのぼって、数時間前のことである。  周と鐘崎は、香港に向けて出発目前だった。離陸間際だったが、兄の周風から冰たちの現在地が掴めたとの連絡が届いたのだ。 『二人のGPSが反応した。どうやらマカオにいるらしい。空港から著名なホテル群が立ち並ぶ市街地へ移動していることが分かったんで、俺が今から現地へ向かう。お前たちが香港に到着する時間にヘリを待機させるんで、すぐに後を追って来い』  それと同時に、この時間にマカオに到着した便をピックアップして、一般路線からプライベート機まで、それらしいものを洗い出してくれるそうだ。特に拉致という特殊な事態であることから、プライベートジェットである可能性が高いので、それならば簡単に持ち主を突き止められるだろうとのことだった。  一先ずは二人の所在が分かっただけで安心できたが、残るは容体などの詳しい情報が待たれるところである。怪我をさせられたりしている可能性も考えられるので、その点については兄の風が迅速に動いてくれることは本当に有り難かった。  そして、前回は留守番だった執事の真田が、今回は是非とも同行させて欲しいと言い張ったので、彼も周らと共に出発するこことなった。真田としても今や実の家族のように思える冰のことが心配で、居ても立っても居られないというのだ。  真田をはじめ、誰にでも好かれ、方々から気に掛けてもらえるのが冰だ。やさしい性質というだけでなく、思いやりがあって穏やかで、周囲の人間の些細な気持ちなどにもよく気が付く。それでいて芯はしっかりとしていて、見かけからは考えられないような精悍さも併せ持っている。そんなふうにして周囲からも愛されている冰が自分の伴侶だと思うと、周の中では果てしなく彼への愛しさが募るのだった。  そして、周らが間もなく香港へと着陸しようという頃になると、より一層状況が明らかになってきた。  先ずは、マカオへと向かってくれた兄の風から、二人が無事でいるようだとの報告が飛び込んできた。また、ほぼ同時に現地在住の張敏からも直接電話が入り、更に詳しいことが分かってくる。それを受けて安堵すると共に、周も鐘崎もうれしい苦笑を誘われてしまった。 「……ったく! こんな事態に巻き込まれたってのに、あいつらときたら……」  元恋人と名乗ったらしい唐静雨の件に関しては驚いたものの、張との偶然の再会からイカサマカジノをぶっ潰す計画にまで乗り出していくとは、さすがに溜め息をつかざるを得ない。 「とにかく無事でよかった。張たちのカジノの件については俺たちも動かざるを得ないだろう。問題は唐静雨という女の方だな。本当にお前の恋人だったのか?」  鐘崎が訊いたが、周はそれこそ溜め息ものだと言って苦笑で返した。

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