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恋敵34

「このくらいのこと、普段のお前さんなら簡単に考え付きそうなもんだがな。やはり冰のこととなると勘が鈍るといったところか」 「ああ――。情けねえがその通りだな」 「心配が先立つ気持ちは分かる。俺も……これが俺の過去に関することで、紫月が心を痛めながらも今の冰のように動いているとするなら同じようになるだろうからな。それどころか、もっと大人げなく苛立っちまうかも知れん」 「カネ――」 「だから俺たちがいるんだ。お前には俺が、冰には紫月がついてる。逆も然りだ。俺たちが窮地に居れば、お前と冰が支えてくれる。そうだろう?」 「ああ……。ああ、もちろんだ!」 「冰のやさしい――何の見返りなど求めずに純粋に他人を思いやるあったけえ気持ちに精一杯花を添えてやろうじゃねえか。今夜のカジノ潰し、俺たちも全力でバックアップしよう」 「すまねえ、カネ……。恩にきるぜ――!」  二人は固く拳を握り合ったのだった。 ◇    ◇    ◇  一方の冰らは、街中に出て女性用のアパレルショップを見て回っていた。 「うーん、男二人じゃさすがに入りづらいですね」  だが、そんなことを言っている場合でもない。 「大丈夫さ。彼女用のプレゼントだってことで、店員の応対は俺が上手く引き受けるから、冰君は欲しい服の目星をつけていってくれ」 「ありがとうございます。それじゃ、まずは目立たない服装から選びましょうか」  とはいえ、一応カジノに入るわけだから、それなりにドレッシーなものを選ばなければならない。 「ここなんか良さそうですね。ちょっとおとなしめのワンピースに……靴は歩きやすい物を調達しましょう。その後は別のお店に行って、一発勝負用にちょっと派手目なドレスを選ぼうと思います」 「オッケー。そんじゃ、早速行ってみるか!」  二人が店に入ると、監視役の男たちはさすがについて来づらいわけか、入り口付近で様子を窺うことにしたようだ。  冰が数着を手に取っていると、後方から店員らしき男性が声をかけてきた。 「お気に召したものは見つかりましたか? よろしければご試着などもしていただけますが」 「あ、はい。ありがとうござい……」  ――――!?  店員を振り返ったと同時に、冰は驚きに瞳を見開いてしまった。なんと、そこにはにこやかに微笑んだ鐘崎が立っていたからだ。 「……か、鐘崎さんッ!」 「しー! 静かに。このまま試着をするふりをして裏口へ向かえ。氷川が待ってる」  鐘崎は言うと、目配せで店の奥を指した。そこには紫月がおり、『こっちだ!』というように手招きをしている。 「あ、あの……ですけど、監視の人が……」 「ああ、知っている。あの二人は既に李さんが対応中だ。さ、行くんだ」  鐘崎に促されて、冰は裏口へと急いだ。  待っていた紫月も頼もしそうに微笑んでいる。彼の方が一足早く店内で鐘崎と落ち合ったのだろう。

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