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恋敵39

 冰は自分でメイクなどをして変装するつもりでいたようだが、プロの倫周の手に掛かれば鬼に金棒である。再会を喜んだ後、早速に支度が整えられていった。 「今回は冰君が女性に変装するんだってね! それで、どんな雰囲気にすればいいかな?」  倫周に訊かれて、冰はまず買ってきたドレスを広げてみせた。絹地が美しく、真紅に金の刺繍が施されたチャイナ服である。 「おや、これはまた! とても綺麗な色合いの素敵なドレスだね!」 「ええ、今回は外国からマカオに観光にやって来たお金持ちのお嬢様っていう感じでいきたいと思います」  冰は照れながらも、あまり世間を知らない箱入り娘が執事の爺やを伴って初めてのカジノを体験するというシチュエーションを説明する。 「それで敢えて中華服なわけだね! それじゃ、カラーコンタクトを使って外国人ふうにしようか」  倫周もワクワクとしながら冰のコンセプトを頭に入れていく。裕福な家庭に育ち、珍しいことには興味を示して物怖じしない、少々我が侭娘といった雰囲気がいいそうだ。バカンスで訪れたマカオで憧れの中華服に身を包み、映画で観た世界を堪能すべくカジノ体験に興味津々というお嬢様を目指してヘアメイクを作り込んでいく。 「よし! いい感じに仕上がった。こんなんでどうかな?」  鏡に映った姿は、まさに冰が思い描いていた通りの箱入り娘の出来上がりである。といっても、我が侭娘の演技をしていない今の段階では、とても美しく気品のある娘にしか見えない。周はもちろんのこと、全員が溜め息もので心拍数を速くしたのは言うまでもない。 「冰……なんて美しいんだ……。このままカジノへ行かずにお前を拐っちまいてえくらいだ……! というよりもこんな綺麗なお前を人前に出すのは妬けて仕方がねえ」  周は今にも抱き締めたくて堪らないといった表情でクイと華奢な顎を持ち上げる。 「白龍ったら……褒め過ぎだよ……」  冰の方もそんなふうに色香のある仕草をされれば、なんだかムズムズとしてしまいそうだった。  そんな二人の様子を微笑ましく眺めながら、次の役者を変装させようと倫周が笑う。 「えーと、お熱いお二人さん! お取り込み中のところお邪魔虫が失礼致しますよー?」  ウィンクを飛ばしながらクスクスと冷やかすように微笑まれて、冰はモジモジと頬を染めた。 「えー、ゴッホン! それで、執事の爺やさん役はどなたがなさるのかな?」  未だフフフと笑いながら倫周が問う。前回は周を初老の紳士に変装させたわけだが、今回も彼が演るのかと思ったわけだ。  すると、珍しいことにその役は是非自分にやらせて欲しいと言って真田が名乗りを上げた。 「僭越ながら、私ならば変装も要りませんし、少々我が侭なお嬢様に手を焼いている爺やという役柄も素のままでいけると思います。是非とも私にやらせてください!」  真田がそう言ってくれるので、厚意に甘えることにした。そうすれば周や鐘崎、そして紫月の手も空くので警備の方も万端となる。まさに適役といえた。

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