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恋敵47

「とんだ濡れ衣だな。冰はそんなことをチクるような奴じゃねえ。お前、こんなにまでしてもらっても、まるで人の厚意が分からんヤツだな。お前が横領したことは誰に聞かずとも既に調べはついている。俺の情報網を舐めるんじゃねえ」  今の周は普段の冰や身近な者たちに見せる穏やかな男ではない。マフィアのファミリーの顔そのものの厳しいオーラが全身から滲み出ている。おそらくは唐静雨自身も学生の時分には見たことのないものだったろう。次第にドキドキと心拍数を上げながら挙動不審に陥っていく様子が見て取れた。 「……別に……そういう意味で言ったんじゃないわ……」 「だったらどういう意味だ。それ以前に、お前はこいつに対して俺の元恋人だなどとのたまわったらしいが、それについても俺は腹を立てているんだ。そんな嘘を冰に吹き込んで、どういうつもりなんだ」 「……嘘……だなんて、そんな言い方ひどいわ……」 「酷えのはどっちだ。そんなことをされても、こいつはお前の為に精一杯試行錯誤してくれた。謝罪と礼のひと言くらいあってもいいと思うがな」 「そんな……! アタシは別に……そんなことしてくれなんて……」 「頼んでねえってか? これだけの大金を揃えてくれたこいつに対して、それがお前の態度というなら金は持って帰らせてもらう」 「……待って! 違う……。頼んでないなんて、そんなことを言いたかったわけじゃないわ。でも……どうしてその子が……アタシの為にお金を都合してくれるのか……分からなくて。それに……そんな大金だもの。こんな短時間にその子が揃えたなんて信じられないって思っただけで……。本当はあなたが揃えてくれたんじゃないの?」 「愚問だな。冰はたった今、カジノでこの金を稼ぎ出してくれたんだ」 「カジノですって……?」 「そうだ。お前の横領分を何とかして都合してやろうと、カジノで大勝負に出たんだ」 「そんな……」  それこそ信じられないといった顔つきで、女はますます唇を噛み締めた。 「アタシは……ただあなたに会いたかっただけよ……! あなたに会いに行くにはお金が必要だったわ……! 横領横領っていうけど、アタシは横領なんてしたつもりはないわ! 専務の丁さんと付き合ってきたのだって……全部あなたの為に……あなたが好きだから……! なのにあなたは……男となんか付き合って……。ショックだったわ……。あなたが普通に女性と付き合ってるなら諦めもついたかも知れない。でも男と結婚まがいの入籍までするって知って……我慢できなかったのよ!」  冰への礼どころか謝罪すらそっちのけで、今度は周に当てての恨み言が飛び出す始末だ。それこそ頼んでもいないことを『すべてはあなたの為にやったことだ』と言われても呆れるしかない。 「唐、何を勘違いしているか知らんが、これだけははっきり言っておく。俺は今も昔も変わらねえ。お前に恋情を持ったことなどただの一度たりとねえし、お前が俺をどう思っていようが、その気持ちに応えることはない。お前じゃなくても同様だ。男だろうが女だろうがそんなことは問題じゃねえ。俺が唯一無二の伴侶として心から愛しているのはここにいる冰だけだ」

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