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厄介な依頼人18

「――紫月のことを嗅ぎ回ってるってことか?」 「嗅ぎ回るとはさすがに言葉が悪いが、まあニュアンス的には当たりといったところさ。遼二さんの奥様っていうのはどういった方なのかとか、何処で出会ってどんな経緯でお前さんに嫁いだのかとか。とにかくいろんな人に訊いて歩いているようなんだ」 「お前にも何か訊いてきたのか?」 「いや、幸い僕のところには何も言ってきていないが、繭嬢のお父上と同年代の社長連中にも物怖じせずに尋ねて回ったりしているようでね。嘘か本当か知らないが、興信所に調査を頼んだとか頼まないとかの噂まで飛び出す始末さ。お前さんに限って浮気なんてことはないとは思うが、これ以上やたらな噂が広まる前に耳に入れておいた方がいいと思ったわけだ」  鐘崎はひどく驚かずにはいられなかった。 「バカこいてんじゃねえ、誰が浮気なんかするか!」  そうは言ったものの、どうやら放っておいて済む話ではなさそうだ。鐘崎自身は自分がどう思われようが、どんな噂を立てられようが眼中にないが、紫月が巻き込まれるとあっては話は別だ。 「すまねえ、粟津。もう少し詳しく聞かせて欲しい。できれば会って話したいんだが、都合がつくか?」 「僕は構わないよ。元々お前さんを訪ねて話すつもりだったし。電話にしたのは、仮に浮気が事実だとしたら紫月の手前あまり良くないと思っただけだからね」 「ああ……そうだったか。気遣いさせてすまねえ。俺と紫月は至って平穏だが、確かに放置できる話でもなさそうだ。都合はお前に合わせる」 「そう。それじゃ、今夜か明日の晩でどうだい?」 「助かる。今夜、俺から出向く。場所は何処がいい?」 「父の経営するホテルのペントハウスに我が家のプライベートルームがある。グラン・エーというホテルだ。お前さんも知っているだろう?」 「ああ、都内に何店舗かあるな?」 「東京駅の丸の内側にあるウチの本社ビルの隣のやつだ。一応そこが本店なのでね。フロントを介さずに直接上がれるエレベーターがあるから、駐車場に着いたら電話をおくれ」 「分かった。世話を掛けてすまねえな。じゃあ今夜」  鐘崎はひとまず帝斗に会って詳しい話を聞くことにしたのだった。 ◇    ◇    ◇  その夜、鐘崎は源次郎と清水を連れて帝斗の待つホテルへと向かった。今後、万が一にも紫月の拉致などという極端な事態が起こった場合に備えての体制を万全にする為だ。一人で話を聞くよりも、組の中枢である彼らにも知っておいてもらった方が都合がいいからである。

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