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厄介な依頼人30
「遼二さん! 遼二! 助けて!」
服は着たままだが、胸元だけはハダけていて娘の白い肌があらわにされている。馬乗りになられて大声で抵抗してはいるものの、鐘崎の目にはその様子がひどくチグハグで陳腐な印象に映ってしまったのだった。
それが証拠か、男の方は鐘崎の侵入を察知すると同時に、「おっと!」と言って、すぐに繭を突き放しベッドから飛び退いた。まるで悪気のなく、口元にはニヤニヤと冷やかすような薄ら笑いを浮かべている。
「残念ー! もう彼氏のお出ましかよ」
相反して繭の方は慌てたようにベッドから起き上がると、弾丸のような勢いで鐘崎の胸へとしがみ付いてきた。
「遼二……! 遼二ー! 怖かったわ!」
ギュウギュウとしがみ付き、その勢いは体格のいい鐘崎であっても後退りさせられるほどだ。服も肩先までが剥き出しにされていて、胸の谷間もあらわにブラウスの中の下着がのぞいている。ともすれば乳輪が見え隠れするような卑猥な格好を隠そうともせずに、娘は必死に抱き付いたまま離れようとはしなかった。
ごく当たり前に考えるならば、手籠に遭う一歩手前といった状況といえる。間一髪のところで助けが間に合ったというふうに見えるものの、鐘崎からすれば相当にあざとさが窺える胡散臭いものだった。
それを証拠に、周や清水らが捕らえた男たちが大慌てといったふうに喚き散らし始めていた。
「何? 話が違うじゃね? ちょ……、離せって!」
「信じらんね! 刑事が来るなんて聞いてねえっての!」
どうやら彼らは周と清水たちを警察の人間と勘違いしている様子である。あまりにも手際良く拘束されてしまったのと、周らの持つオーラが尋常ならぬ玄人に思えたのだろう、男たちは尋ねもしない内からいろいろと興味深いことを暴露し始めてくれた。
「ンだよ! 女のカレシが一人で来るんじゃなかったのかよ? 何でケーサツが出てくるわけ?」
「冗談だろ? 俺ら、何もしてねえかんな! ワッパかけるとかマジ勘弁してよ!」
喚き散らす彼らの様子を見ただけで、鐘崎にも周にもおおよその事態が読めてしまった。つまり、狂言誘拐で当たりというわけだ。
呆れる以前に腹立たしいほど溜め息が尽きないところだが、それはまた別の意味で娘の繭にとっても同様だったようだ。鐘崎以外にも数人の屈強な男たちが連れ立って来たことを知って、驚きを隠せない様子でいる。加えて、いとも簡単に捕えられてしまった男二人があれやこれやと事情をしゃべりまくっていることに、蒼白となっていった。
「お嬢さん、これはいったいどういうことです? とんだ悪ふざけだな」
「……あ……違……っ! アタシは……」
娘は硬直したまま、言い訳さえもままならないといった調子で愕然と立ち尽くしている。
「清水、とにかく親父さんを呼んでくれ」
鐘崎のそのひと言で娘は我に返ったわけか、驚愕の表情をしながら視線を泳がせた。
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