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極道の姐6

 一方、鐘崎の友人である周焔の方にも、似たような不穏に悩まされる事態が勃発していたようである。  現段階では特に災難が降り掛かってきているというわけではないのだが、風の噂で耳にした情報によると、以前に手を焼かされた唐静雨という女性のことで少々気になる話が聞こえてきているのだという。周の元恋人だなどと嘘八百を並べ立てて、冰と紫月が拉致まがいの目に遭わされるきっかけとなった張本人である。  噂によれば、あの騒動の後、日本で購入したマンションも取り上げられたという彼女だったが、現在は米国に渡り新たな生活を始めているらしい。それ自体はどうでもいいことで、周にとっては既に関心すら皆無の女である。気に掛かるのは、彼女が渡航先の米国で裏社会の人物と通じるようになったらしいという話を側近の李が聞きつけてきたことであった。  午後の汐留では周が苦々しい顔で片眉を寄せていた。 「唐静雨に関わっている裏社会の人間ってのが割り出せたそうだな? いったいどこの組織のヤツなんだ」 「はい。彼女は現在ニュージャージーで小さな貿易会社に勤めているようですが、場所的には川一本挟んで隣はマンハッタン島です。接待で行った先でニューヨークマフィアの一員だというアジア系の男といい仲になったようで、今では同棲も同然の暮らしをしているとか。ただ、その男が組織の中でどの程度の位にあるのかは調査中です」 「住処はニュージャージーなのか?」 「女のアパートはそのようです。最近ではブルックリンにある男のヤサに転がり込んでいるようですが、話によるとそこも貸し家のようで、男自体は独り身とのことです。想像するに、組織内でも上層部の人間ではないと思われます」 「つまり、単なるチンピラってところか」 「おそらくは――。一度現地に行って詳しく調べてみましょうか?」 「難しいところだな。あの女が過去を振り返らずに新しい道を歩み始めているだけなら関わらないに越したことはない。念の為調査するだけなら、こちらの動きは勘付かれんようにしねえとな」 「おっしゃる通りですね。老板が関心を示しているなどと勘違いされても厄介です。焼け木杭に火を点けるようなことになってはいけませんし」 「まあ、現段階では特にこちらを意識した動きがないなら放っておくのが賢明だろう。だが、一応動きは気に掛けておいてくれ」 「承知致しました」  李との意見をまとめたところで、早くも傾き出した秋の陽射しに手元の腕時計を見やる。 「そろそろ冰と劉が隣のビルから戻る頃だな。今夜は何も予定が入っていねえから、早めに切り上げるとするか」

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