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極道の姐19

 台湾での仕事を切り上げて、早速に駆け付けて来たのである。 「親父(おや)っさん! お待ちしてました!」  紫月が感嘆の面持ちで迎える。  裏の世界で右に出る者はいないというほどの百戦錬磨の僚一がいれば鬼に金棒である。彼の姿を見ただけで、その場にいた者たちにとてつもない勇気の感情が湧き上がっていくようだった。 「僚一、煩わせてすまない」  むろんのこと隼も例外ではなく、僚一がいてくれるだけで心強いといったように出迎える。 「ここへ来るまでの間に俺の方でも少し調べてみたんだが、やはり犯人は唐静雨という女が絡んでいることに間違いなさそうだ」  僚一は、源次郎からの報告を受けて、拉致犯の割り出しに取り掛かっていたのだった。 「唐静雨が米国で懇意になったという男の素性だが、どうやらニューヨークマフィアというのは本当らしい。名前はロナルド・コックス、通称ロンだ。ヤツは元々ここマカオの出身だが、両親が他界したことでアメリカに渡ったらしい。ロナルドというイングリッシュネームも元々の”龍”という名から取ったと思われる。腕に小さな龍のタトゥを入れて、向こうではドラゴンなどとのたまっていたそうだ」  その話を聞いて、隼からは思わず嘲笑が漏れる。 「ドラゴンとな――。笑わせやがる」  それも然りか、周親子の(あざな)には皆”龍”の文字が入っているし、ドラゴンのタトゥという点でも被っている。ただ、周家の場合は三人それぞれ、背中全面にうねるような立派な昇龍の刺青があるわけで、ロンという男がお遊びで入れたのだろうシールまがいとは格が違うといえる。  僚一の調べでは、ロンは当初親戚を頼って渡米したそうだが、折り合いが悪く、ほどなくして不良グループに入り、そこから地元マフィアの一員にまで成り上がったらしいとのことだった。 「ただ、マフィアといっても名ばかりで、立場的には下っ端も下っ端、上層部の連中からは存在すら知る由もないといった具合だったようだ。唐静雨という女の方も焔との一件で香港を追われてから、ニュージャージーにある小さな貿易会社で事務員として働いていたようだが、そこでロンに出会ったんだろう。ヤツがマフィアと知って焔への対抗心でも生まれたのかも知れん」  さすがは僚一である。李らが時間を掛けて調べ上げた情報を、この数時間の内にすっかり把握してしまった手腕には驚きを通り越して驚愕とさえいえる。 「しかも、この真向かいにあるホテルはロンの両親が経営していて潰れた跡地だそうだな? 拉致した三人を捕らえておくには最適と踏んで舞い戻って来たんだろう」  そこまでお見通しというわけか。李などは恐れ多いといった調子で、心底申し訳なさそうに首を垂れてしまった。

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