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極道の姐20
「長 ・鐘崎……ご尽力、恐縮の極みです。我々がついていながら唐静雨の動きを読み切れなかったことは手落ちとしか言いようがございません。焔老板はもとより、兄上の風老板、それにご子息の遼二殿まで煩わせてしまい、お詫びのしようもございません! かくなる上はどうあっても御三方を無事に救出できるよう命を賭して臨む所存です! どうか引き続きご助力賜りたく……この通りです……!」
気の毒なくらいに腰を折って謝罪する様子を横目に、だが僚一はもっと驚くべきことを口にした。
「李、そう恐縮してくれるな。実はな、今回の拉致だが、どうも目的は焔だけではないようなんだ」
その言葉に全員が一斉に僚一を見やる。
「……と申されますと?」
「唐静雨が焔への未練を捨て切れずに――あるいは逆恨みの感情でか分からんが、この拉致計画を企てたことは間違いないだろう。女一人では成し遂げられない故にロンというチンピラをそそのかしたのも事実だろうが、それだけではないようだ。唐静雨は今回の企てを実行する直前に日本を訪れていたようだぞ」
つまり、つい最近彼女が来日していたらしいというのだ。
「あの女が……ですか? ですが、我々の耳には入ってきておりませんで……」
まさか動きを見落としてしまったのだろうかと、李はそれこそ身の縮む思いに陥ってしまった。だが、そうではなかったらしい。
「女の動きに気付かなかったとしても、それは李の落ち度ではない。唐静雨が来日した経緯には裏があってな」
「裏……ですか? それはいったいどういう……」
「まず最初にロンというチンピラが先に日本へやって来て、密かに焔の周辺を嗅ぎ回っていたようだ。情報を得がてらヤツは銀座界隈のクラブにも顔を出していたようでな、えらく羽振り良く振る舞っていたらしい」
つまり、遊興ついでに周焔についての情報も仕入れようとしていたということか。
「焔の社は汐留にある。若くしてあれだけでかい社のトップだから、当然銀座のクラブなどにも顔馴染みであると踏んだのだろう。一見としていくつかの店を回っていたようだが、そこで或るホステスと知り合い、意気投合したようでな。そのホステスというのが我が愚息の遼二にしつこく色目を使っていたサリーという女だったんだ」
これには李よりも紫月の方が驚かされる羽目となった。
「サリーって……遼に再三後見を頼んできてたっていう……あのサリーですか?」
「そうだ。まったく厄介な縁というか、負の歯車が噛み合わさっちまったらしい。焔と遼二が親友であると知ったことから、ヤツらは互いの目的の為に手を組むことにしたと思われる。米国でロンからの情報を待っていた唐静雨に、サリーの名で偽旅券を作り、日本に呼び寄せて合流。今回の拉致計画を練ったってところだろう」
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