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極道の姐28

『これ、何だか分かるか? てめえらもマフィアだってんなら訊くまでもねえかも知れねえが』  彼が懐から取り出したのは拳銃だった。 『トカレフか。そんな物騒なモンまで持ち出して、戦争でもおっ始めようってか?』  仮にしここで周兄弟を撃ち殺したりしたものなら、香港のファミリーが黙っているわけもない。いかにロンがチンピラの下っ端といえど、一応はニューヨークマフィアを名乗る以上、海を越えた同業者同士の抗争に発展するのは目に見えている。それこそ戦争というわけだ。  だが、ロンは余裕たっぷりに鼻で笑ってみせた。 『俺だってそうバカじゃねえ。直接手をくだすなんてことはしねえさ』 『女に()らせようってか?』 『いいや! いかに俺でも静雨に手を汚させるつもりはねえ。これでも女に対しちゃ紳士だって自負しているからな。てめえら兄弟には相討ちでくたばってもらおうって寸法よ!』 『相討ちだ?』  ロンの言い分に周兄弟は眉根を寄せた。 『聞くところによると、てめえら兄弟は母親が違うそうじゃねえか。兄貴は正妻の子で、弟は妾腹なんだろ?』 『それがどうした。俺たちにとっちゃ正妻も妾もねえ。二人のお袋はどちらも大事なファミリーだ』  兄の風がきっぱりと言い切ると、ロンはまたもや鼻先で笑った。 『……はん! 金持ちってのは体裁にもカッコ付けてえ生き物なんだな? そうやって表向きは仲良さそうに振舞っちゃいるが、裏では何かと鬱憤もあるんじゃねえのか? 兄貴のてめえはいつ弟に後継を乗っ取られるかも知れねえし、弟の方は従順なフリして虎視眈々と後目を狙ってるかも知れねえぞ? てめえらがどんなに否定しようが世間一般的にはそう見られても何らおかしくはねえってことだ。そこで、てめえらにはコイツで互いを撃ち合ってもらおうと思ってな』  今度は腰元のポケットからもう一丁別の拳銃を取り出して、二丁を兄弟の目の前へとチラつかせた。 『てめえらが撃ち合わなきゃ、対面の部屋にいる男、鐘崎とかいったか? ヤツの命はねえ。親友なんだろ? てめえら兄弟の身勝手で、何の関係もねえダチが命を落とすなんざ不本意だろうが?』  つまり、鐘崎を人質に取って脅そうというわけだ。汚い手を考える。 『俺は本気だぜ? どうしても言うことを聞かねえってんなら、俺が直接手を下して、てめえらが撃ち合ったように見せ掛けることもできるんだ。どっちにしてもあと少しの命ってことだ。静雨が起きてくるまでは待ってやるが、それまでじっくり兄弟でこの世の名残りを惜しむんだな!』  ロンはそう言い残すと、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら部屋を後にしていった。

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