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極道の姐48
「ここ……お風呂? ここから助けにいらしたの?」
天井に開けられた穴を見上げながらサリーが目を丸くしている。
「そうだ。入り口はお前さんが家具で塞いじまったろうが! だからここから入るしかなかったってわけだ」
サリーは『あッ……』と声を上げて申し訳なさそうにうつむいてしまった。
「よし、押し上げてやるからお前から先に登れ。天井裏から向かいの部屋へ行く」
「え……? 天井から?」
「その方が敵に気付かれにくい」
「で、でも……助けに行くなら正面切って行った方が……。何ならアタシが静雨さんに上手く声を掛けるわ」
「相手は銃を持っているんだ。それに……冰の手腕を一部始終目に焼き付けるには、天井からが打って付けだ」
「冰って……周焔の奥さん?」
「そうだ。紫月と冰の姐としての覚悟を見ておくことは、今後のお前の人生にきっと役に立つ。男を取り戻すにしろ銀座で返り咲くにしろ、お前なら彼らの行動から必ず大事な何かを掴めるはずだ。なに、心配するな。本当にヤバくなりゃ、すぐに援護にかかるさ」
僚一に押し上げられれるまま、サリーは天井裏へと這い上がった。
ここから薄暗い屋根裏を向かいの部屋まで進む。
「サリー、俺が先に行く。くれぐれも音に気をつけろよ。ここは埃だらけだが、声を出さねえように注意してついて来い」
女には気の毒な環境だし、建築の際の木屑や、虫の死骸はおろか、蜘蛛の巣などにも遭遇しそうである。驚いた彼女に悲鳴でも上げられれば一貫の終わりだ。
「え……ええ、気をつけるわ」
物音を立てれば鐘崎の友人である周の命に危険が及ぶ。サリーもさすがに分かっているのか、無我夢中といった調子で僚一の後に続いた。
二人が何とか周らのいる部屋の真上へと辿り着くと、ちょうど冰たちの声が廊下側から聞こえてきたところだった。
「ほら、ここが周たちの部屋ですぜ。どうぞ入ってくだせえ」
ロンが冰を立てるようにそんな言い方をしているところをみると、彼の方も上手く丸め込めたようだ。
「さすが冰だな。ここまでは順調といったところか」
僚一は天井の端にわずかばかり剥がれ掛けた箇所を見つけると、音を立てないように細心の注意を払いながら天井板を少しずらして室内を覗ける穴を作り出した。
「よし、ここからならちょうどテレビボックスの陰になって下からは気付かれまい」
サリーにも見えるようにと少しばかり脇によけてやる。下ではちょうど冰らが入室してきたところだった。
「あれが周焔の奥さん?」
「そうだ。さあ、ヤツはどうやって焔を救い出すつもりなのか」
「そんな悠長なことを言ってる場合っ!? アタシが聞いた話だと、唐静雨さんとロンって男は周焔とその兄さんを殺すつもりのようだったわ……! こんなところで見ていないで助けに入った方がいいんじゃないの? 僚一さんならそれくらい簡単でしょう?」
サリーが焦り顔でいる。
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