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極道の姐59

「ありがとう。本当に……こんなアタシに……ありがとう、冰さん。これまであなたに……あなたと焔にした無礼を謝るわ……。本当に……ごめんなさい……!」 「静雨さん……!」 「……アタシ、到底あなたのようにはなれないけど……これからは少しでもあなたに近付けるように努力するわ。今までどれだけ自分よがりだったのか……よく分かったの。本当にごめんなさい……!」  ポロポロと涙を流しながらそう言ってうつむいた静雨の肩をサリーが慰めるように撫でては、女たち二人は寄り添い合い、抱き合った。そんな彼女らの様子に、冰もまた安堵の思いで熱くなった目頭を押さえるのだった。 「……! そうだわ……ロン! あの人は……」  ロンの方はどうなったのだろうかと静雨がハタと顔を上げた。すると、今度は周が少々呆れたような苦笑気味ながらそれに答えてみせた。 「ああ、あの男な。ヤツもこのホテルの別の部屋に捕らえてあるんだが――、とんでもねえことを言い出しやがった」 「……とんでもないこと……って?」  静雨が不安そうに首を傾げている。まさか、ロンの方はまだ諦めておらず、新たな火種を撒こうとでもしているのかと思ったのだ。ところがそうではなかったらしい。  何と彼は冰の人柄に心酔してしまったらしく、是非とも舎弟にしてくれと拝み倒したのだそうだ。 「あの野郎、土下座したっきり冰の側を離れやしねえ。部屋に閉じ込めても舎弟にしてくれるまで諦めねえと喚きやがるし、あのしつこさだけは閉口もんだな。黙らせる為にちょっと揉んでやったが、まるで堪えてねえようだ」 「揉んでやった……って、もしかして殴った……とか?」  静雨が訊く。まあこれだけの大それたことをしたわけだから、それも当然だろう。だが、ロンが殴られたのなら、自分も同じ罰を受けるべきだと静雨は思ったようだ。 「あの……焔?」 「何だ」 「アタシ……その、アタシも殴ってくれていいわ……。それだけのことをしたんですもの。もちろんそれで許されるとは思っていないけれど」  せめてそれくらいしてもらわないと申し訳ない、うつむく静雨の態度からはそんな思いが滲んでいるようだった。  だが、周は薄く苦笑すると――さらりとひと言、 「俺は女に手をあげる趣味はねえな」  至極当たり前のようにそう言った。  その瞬間、静雨の瞳からは溢れんばかりの涙が潤み出し、ボタボタと音を立てる勢いで号泣してしまった。 「……っう……焔……、焔ごめんなさ……! アタシ、本当に……」  そう、やはり自分は周が好きだ。彼のこんなところが堪らないのだと痛感させられる。  だが、どんなに想えども叶うことはないのだ。  彼には誰よりも相応しい冰という伴侶がいる。やさしくて思いやりがあって、周の為ならば例えどんなことも厭わない愛情にあふれている彼だ。しかも、困っている人間がいれば例えそれが見ず知らずの他人であっても手を差し伸べることのできる素晴らしい人間性をも持ち合わせている。そんな二人の仲に割って入ることなど到底できっこない。  そんな思いを呑み込みながら、静雨はただただ涙し、謝罪の言葉を繰り返すしかできなかった。

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