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チェインジング・ダーリン1
「鐘崎様……! お待ち申し上げておりました!」
クリスマスも間近という師走の初め、それは――とある週末のことだった。
有名宝飾店の新店舗が丸の内の一等地に開店するとの招待状が届き、鐘崎組若頭の鐘崎遼二が伴侶の紫月と共に出向いた会場でのことである。
支配人の男が少々慌てた素振りで出迎えに飛んで来たのに驚かされたのも束の間、オープニングセレモニーという華やかな日には相応しくない相談を受けることになろうとは、さすがに想像できずにいた。
「おいおい、えれえ歓迎ぶりだな。正直言ってウチはそんな大層な上客ってわけでもねえのによぉ」
紫月が暢気な口ぶりで、隣に立つ亭主の鐘崎に囁いている。今日は開店前日ということで、普段から付き合いの厚い上客のみが招待されての内覧会なのだ。
鐘崎の組ではそうしょっちゅう宝飾品を購入しているわけではないのだが、以前に警護の依頼を受けたこともあり、また顧客という点でもそれなりの付き合いはあるので、こうして招待を受けたというわけだ。また、汐留の周焔の元にも同じように招待状が届いたとのことで、いつものように四人で待ち合わせてセレモニーに出席することとなっていた。
「鐘崎様、実は至急ご相談したいことがございまして……」
支配人は別店舗時代からの顔見知りの男で、今回の新店舗開店に当たってこの店へとやって来たそうだから、二人にとっては馴染みである。その彼がひどく慌てた様子でそんなことを言うものだから、何事かと首を傾げさせられてしまった。
「どうかなさったんですか? 随分とお慌てのようですが」
「ここではちょっと……。事務所の方でお話申し上げたいのですが」
支配人が困惑顔で言うので、鐘崎は紫月をこの場に残して話を聞くことにした。というのも、店のロビーで周らと待ち合わせていたからだ。
「んじゃ、俺はあいつらと落ち合ってから直接会場の方で待ってっから」
「分かった。じゃあ後でな」
事務所に着くと支配人はスタッフたちにさえ極秘といった調子で、鐘崎を自分専用の個室へと案内した。
「それで、相談というのは――」
鐘崎が訊くと、支配人の男はすがるようにして懐から一枚の紙を取り出した。
「実は……つい先程このようなものがファックスで送られて参りまして……」
扉越しにさえ聞かれまいとしているのか、小声で注意を払いながらそれを鐘崎へと手渡した。
「――!? これは」
文面はごく短いものだが、そこには一目で脅迫と受け取れる内容が記されてあった。
開店おめでとう
今日の内覧会を血で染め上げて祝ってやるから楽しみにしていろ
今時わざわざファックスで送ってよこしたということは、送信者などの情報を突き止めにくくする為だろうか。案の定、発信元は近くのコンビニエンスストアとなっていた。
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