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若頭の見た夢4

「へえ、やるじゃねえか。その構え、合気道でもやってんのか?」 「そう言うてめえは空手家かなにかか……。ふざけたことしやがって……欲求不満かよ! そのイカれた根性叩きのめしてやる!」 「ほう? 威勢だけは一丁前だな」  ちょうど天心に達した真昼の太陽が、二人の間を突き抜くように強い陽射しを放っている。 「来い!」 「望むところだ。吠え面かくな!」  しばし技の競演が続いた後、相手を組み伏せたのは鐘崎の方だった。  屋上のコンクリートにねじ伏せて馬乗りになり、両腕をがっしりと押え込む。 「ふん、さすが鬼風紀ってだけあるか。なかなかやるじゃねえの。だが、技が互角なら体格のいい方に勝算があるのは知れたことだ。てめえのこの華奢な腕じゃ俺には通用しねえな」 「……チッ、野獣が!」 「いいな、その言い草。じゃ、遠慮なく野獣さしてもらうとするか」  言うが早いか再び唇を塞ぎ、今度は逃げられないように後頭部をしっかりと押え込んでとびきり濃厚なキスを見舞う。  組み敷いて重なり合った身体の中心、雄と雄とを欲するがままにグリグリと擦り合わせれば、次第に怒張し熱を持つ。 「……ぅぐ……放……ッ、この……変態エロ野郎が……ッ!」 「どうとでも」  腰に手を回しズボンの中に押し込んで、筋肉の張った尻を鷲掴む。 「フ、いいケツしてんぜ。いただき!」  朝とは真逆で余裕皆無の表情を見下ろしながら舌舐めずりをしたその瞬間に目が覚めた。  鐘崎が粗方夢の内容を話し終えると、紫月は『へへへ』と笑いながらも呆れ半分の唖然状態だ。 「……へえーえ、そりゃまた結構な夢で……」 「多分、昨夜氷川たちと会った時に高校ン時の話が出たせいかも知れんが……。しかし何であそこで目が覚めるかな……。あの後、まだ夢が続いてたらどうなってたのかと思ったら、飯も喉を通らなかった」  ガッカリとしたふうに溜め息まじりの様子に、紫月の方は苦笑状態だ。 「まさかそれで食欲なかったってか?」 「ああ、どっちか言ったら食欲より性……」  性欲と言い掛けた矢先に口の中にスポっとクッキーが飛んできた。 「わ……ッ! 何だいきなり」  甘いものが苦手な鐘崎は苦虫を噛み潰したように『うへえ』となりながらも、口の中に入ってしまったからには嫌々でも食すしかない。よく噛みもせずに無理矢理喉に流し込んで、慌ててコーヒーで口直しをした。 「へへん、エロ妄想に耽ってた罰だ」  紫月が勝ち誇ったようにドヤ顔で笑っている。 「てめ、紫月!」  憎まれ口を叩かれても、苦手な甘いものを食べさせられても、ひとたびその表情を見れば愛しいと思ってしまうのだからどうにもならない。 「……チッ、惚れた方の負けっていうからな。だが、その分夜は覚えとけよ……」  軽く舌打ちながらも、夜のことを考えれば頬が染まる。今宵はどんなふうに組み敷いてやろうか。せっかくだから夢の続きにトライするのも悪くない。そんな妄想を巡らせながら、若頭としての顔に戻っていった鐘崎であった。 若頭の見た夢 - FIN -

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