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若頭の見た夢3
「……ッ、てめ……今朝の風紀委員ッ!?」
思わず叫んでしまった声に気付いた彼がゆっくりとこちらを振り返る。
紫月は焦るでも悪びるでもなく、咥えタバコのままニヤっと口角を上げてみせた。
その一瞬の仕草がひどく色っぽくて、嫌味よりも先に閉口させられてしまう。訳もなく身体の奥の奥の方から熱い何かが一気に湧き上がるような心持ちにさせられて鐘崎は焦った。
「ああ、今朝の校則違反野郎か」
余裕の仕草でそう言うと、美味そうに紫煙を吐き出してみせる。
「……ッ、てめ……他人のこと言えた義理かよ! てめえこそ校則違反どころじゃねえだろが……」
昼休みの屋上で堂々とタバコをふかし、まるで臆する様子もない。学ランのボタンは全部外されていて、中のシャツこそ校則通りの白だが、胸元半分までがはだけている。だらしないを通り越して卑猥な格好といえるのに、何故か妙に板についていて格好いいモデルのようなのだ。ともすれば、むず痒いヘンな気分に誘われそうで、鐘崎は苦虫を噛み潰したように片眉を吊り上げてしまった。
ジリジリと距離を詰め、側に寄っても彼はタバコを消すでも隠すでもなく平然と笑っている。薄く口角の上がった口元がどうにも淫猥な雰囲気を醸し出していて、不本意にもズクりと身体の中心が疼いてしまいそうだった。
そんな気持ちを振り払うように、鐘崎は半開きの口元からタバコをむしり取ると、疼く気分を抑えるかのように深く一服を吸い込んでは思い切り派手に煙を吐き出してみせた。
「はい、同罪ー。てめえこそヒトのことをどうこう言えた義理じゃねえなぁ」
「……ッ、何が同罪だ! 規則の鬼が聞いて呆れるわな! てめ、いつもそうやってフけてやがんのか? これ先公にチクったら風紀委員の面目丸潰れだろうぜ?」
つい嫌味を口走ってしまったが、彼はまったく動じるでもなく、相変わらずニタニタと笑んだままだ。まるで『チクるなんてダセえことほざきやがるチキン野郎』とでも言いたげなのだ。
「……ッ、腹立つ野郎だぜ」
脳天に血が昇ってしまい、不本意にも頬が真っ赤に染まる。
何をどう思ったのか、鐘崎は突き動かされる衝動のままに、気付けば彼の腕を掴み上げて引き寄せ、つい今しがたまでタバコをふかしていた口元を自らの唇で塞いでいた。
「な……ッにしやがる、てめえッ!」
さすがに驚いたわけか、思い切り押しこくられたと思ったら、次の瞬間には太腿目掛けてキツイ蹴りの一発を見舞われた。どうやら敵もなかなかにやるようだ。
鐘崎は即座に体勢を立て直すと二、三歩後ろに引いて身構えた。相手の紫月もその動きに引けを取らずといったいった俊敏さで、二人は戦闘体勢で睨み合う。
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