391 / 1208
若頭の見た夢2
それは校門を潜ろうとした時だった。いつものようにチャイムギリギリで、隣には氷川こと周焔も一緒だ。
「はーい、そこの二人。遅刻だ。生徒手帳出して」
呼び止めたのは鬼の風紀委員と名高い生徒会役員の一之宮紫月だった。手にしたボードに視線を落としながら、こちらを見るでもなく飄々とした仕草で遅刻者の欄に名前を書き込んでいる。
「ちょい待ちッ、まだチャイム鳴り終わってねえだろが!」
舌打ちと共にその場を押し切ろうとすると、華奢な見た目からは想像もできないくらいの握力で学ランの腕を掴まれて、思わず眉間に皺を寄せてしまった。
「言い訳はしなーい。チャイムが鳴り出す前までに校門くぐるのが決まりだ。それに……学ランの丈も短すぎる。中のシャツは白と決まっているのに、アンタらのそれは何だ」
「何って……別にいーだろ! 学ランなんざ背が伸びた反動で縮んだだけだし、一限目が体育なんだ。どうせすぐに着替えるんだし、その手間を端折っただけだ」
「見苦しい言い訳はいらねえ! それに我が校の体操着は白に青のラインと決まっている。アンタのは黒、そっちの野郎のは赤じゃねえか。明らかに校則違反だね」
「はぁッ? ンなことくれえでいちいち目くじら立てんなって」
「言い訳無用! 二度も言わせんな。とにかく遅刻と着衣指導あるから生徒会室寄って。逃げんじゃねえぜ?」
ニヤっと笑ったと思ったら、くるりと踵を返してスタスタと昇降口へ向かってしまった。
「早く来い。ここでトンズラこいたら校内中の便所掃除一週間の罰則つけるぞ!」
「じょ、冗談じゃねえぜ……。つか、なんなんだあのクソ風紀委員」
「仕方ねえべ? あれが鬼の一之宮って有名人さ。逆らっても便所掃除の期間が伸びるだけだ。行くぞ!」
氷川こと周に促されて、仕方なしに生徒会室へと向かった。
そこまでが今朝の出来事だ。
その日の昼休み、午後からの選択学習の準備があるとかで昼食を別々に取ることとなった周を見送った鐘崎は、購買の菓子パン片手に屋上へと向かった。天気がいい麗かな午後だ。たまには一人のんびり日向ぼっこも悪くはないとやって来た屋上だったが、どうやら先客がいたようだ。
給水タンクの陰に隠れて、誰かが煙草でもふかしているのだろうか。立ち昇る紫煙に、教師ならば即刻この場をおさらばしようと足を止めたその時だった。
タンクの端から垣間見えたのは明らかに生徒と思える学ランの袖。そしてふわふわと風が揺らす薄茶色の天然癖毛ふうの髪――。
それらを目にした途端、鐘崎は思い切り眉をしかめさせられてしまった。なんとそこにはあの鬼の風紀委員で有名な一之宮紫月が気怠げな仕草で咥えタバコをふかしていたからだ。
ともだちにシェアしよう!