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チェインジング・ダーリン4

「平気よ。入り口で冰ちゃんに気が付いたスタッフの方がようこそって言っていらしたから。さすが周家ね! 顔パスってわけ」  まあ、ここの店とは他店舗の時分から結構な付き合いがある。冰と暮らすようになってからも何度か彼を連れて訪れていたし、自分用でなくとも贈答品などでも購入歴が多い為、店にとっては周も上客の部類なのだ。 「よし、じゃあ俺らも行くか」  三人で連れ立って歩き始めた時だった。突如、大きな揺れと共に地下の方から轟音が響いて、建物内は瞬時に騒然となった。 「おい、何事だ!?」 「地震……じゃねえよな? 爆発音みてえだったけど……」  揺れがおさまると同時に館内の照明が次々と落ちていく。 「電気系統か……。事故か、あるいはテロか」  周が紫月の肩を抱き寄せて辺りを警戒する。 「テロって……まさか……。この店新築だし、設備の不具合かなんかじゃねえのか?」  紫月も里恵子の手を取りながら三人で固まって周囲の様子に気を配る。ロビーはおろか、会場内からも人々の悲鳴で溢れ返り、館内は蜂の巣を突いたように大混乱と化していった。 「非常灯が点かねえな。しかもさっきの爆発音だ。やはりトラブルじゃなく故意の可能性が高い」  周がスマートフォンの灯りで照らすと、既に会場入り口の扉は閉められていることに気がついた。 「――分断されたか。こちら側に取り立てて異変がねえってことは……犯人は中か」 「犯人って……おい、氷川ッ」 「来場客たちを人質にとるつもりなのかも知れねえ」  周は言うが早いか会場入り口の扉へと向かうと、思った通りガッシリと施錠がなされていてビクともしない。開閉は最新のシステムが投入されているようなので錠もコンピューターによる管理だろう。物理的に破るとしても素手では困難と思われる。  扉に耳を当てれば、中からは多数の悲鳴と共に大声で誰かが何かを指示するような様子が窺えた。  周はすぐに踵を返して店の入り口にあるインフォメーションデスクへ向かい、館内全体の案内が載ったパンフレットを手にして素早く紫月らの元へと戻った。灯りはまだ点かず、真っ暗なままだ。 「それ、何? 館内案内か?」 「ああ。内覧会の会場は……っと。ここか」  スマートフォンで照らしながら建物内の図面を指で追う。すると、会場内から直接地下の駐車場へと降りられるエレベーターと階段を見つけた。 「どうせこっちの入り口も塞がれているだろうが、ロビー側からよりはアプローチしやすいかも知れん」  周はロビー内で客たちを落ち着かせようと声を張り上げているスタッフを捕まえると、分断された会場内の様子を尋ねた。 「おい、あんた! 今現在、中にいるおおよその人数は分かるか?」

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