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チェインジング・ダーリン14

 目的は臨海地区の倉庫にある原石の略奪だとして、それがスムーズに行えるよう人質をとったということか。だが、ここは都内の一等地だ。今の爆発音を聞いて通行人らからすぐに通報がいくだろうし、そうなれば警察と消防が介入してくるのは目に見えている。仮に倉庫での略奪が成功したとして、いつまでもここに立て篭もるのは逃げる時には不利となろう。 「もしかしたらここにいる客たちを引き連れて移動する算段かも知れん。例えば警察が来る前にここから立ち去ることができれば、ヤツらにとっては万々歳だろう。仮に間に合わなかったとして、人質を乗せたバスなどで逃げ回れば、警察の目をそちらに釘付けできる。倉庫の方はガラ空きになるから奪取も容易い。警察との追撃戦を繰り返した後に適当な場所で人質ごと車を乗り捨てて、犯人どもはトンヅラするという筋書きかも知れんな」  問題はその場所である。どんなルートを走り、何処でバスを乗り捨てるつもりなのかが分かれば源次郎らに伝えて先回りしてもらうことも可能だからだ。 「倉庫内に仮置きしてあるコンテナをトラックに移すだけならさして時間はかからねえか。倉庫で略奪犯を押さえる役割と、人質救助の方にも手が欲しい。源さんに言って二手に分かれて動いてもらう必要があるな」  鐘崎はそれらの推測を手早くメールに打ち込むと、すぐさま源次郎へと送信した。むろん、その直後に履歴を削除するのも忘れない。  会場内は非常灯も点かないまま誰もが床に身を縮めるようにして静まり返っている。すると、犯人らしき男の声で指示が語られ出した。 「スマートフォンを回収する! 死にたくなければ言う通りにしろ。全員ここの出口から出て駐車場へと向かえ。そこにバスが待っているからそれに乗るんだ。モタモタするな! まかり間違って通報なんていうヘタな考えを起こすヤツがいれば容赦なくこれをぶっ放すぞ!」  手にした銃を掲げながら威嚇する。 「思った通りか。この場の全員を引き連れてバスで移動するようだな」  鐘崎は暗闇の中で身を潜めながらも展示物の中から眼鏡を失敬すると、それを装着した。  見たところ森崎の格好はライダーズスーツといった出立ちなので、少々洒落っけのあるIT企業系の青年実業家という感じに見えなくもない。裏社会に生きる極道だとは思われにくいだろう。冰は言うまでもなく品のいいボンボンに思えるし、森崎とは歳頃も近い鐘崎は眼鏡をかければ青年実業家の仲間同士で通るだろうと踏んでのことだ。  万が一にも敵にこちらの正体を怪しまれれば、犯人の気を逆撫でして人質を危険に巻き込むことにもなり兼ねない。そんな鐘崎の咄嗟の判断であった。

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