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漆黒の記憶8
「さあ、それじゃ俺たちだけの秘密の約束もできたことだし、冰――。ひとつだけお前に聞かせておくことがある。もしかしたらお前にとっては驚くようなことかも知れんが、びっくりしないで聞いてくれるか?」
「うん! いいよ。お兄さんの言うことなら僕驚いたりしない」
「いい子だ。これはとても大事なことなんだ。お前には信じられない話かも知れねえが、これだけは覚えていて欲しい。何があっても俺はお前の味方だ。いつでも必ずお前の側にいて、絶対に一人にしたり放り出したりしねえと約束する。だからお前も俺を信じて、思ったことや不安なことがあれば遠慮せずに何でも俺に言ってくれ。いいな?」
「うん……」
真剣な周の言葉に少しの不安を感じるのだろうか。それでも懸命にうなずく様子に、周もまた腹を据えて静かに打ち明けた。
「よし、冰。車椅子を置いてここへ来てみろ。立てるか?」
「うん、どこも痛くないもん」
「よし。じゃあこっちだ」
全身を映す鏡の前まで行き、周はそっと手招きをしてみせた。そして冰の両肩をしっかりと支えるように後ろへと立ちながら、鏡の中を覗かせる。
「映っているのは誰だか分かるか?」
「うん……。お兄さんと……知らないお兄さんがもう一人……」
如何な子供でも鏡が映し出すものが分からない年頃ではない。冰はしばらく不安そうにしながらも、鏡の中の自分を確かめるように恐る恐る手を動かしたりしていた。
「これ……鏡……。なのに何で……僕が映ってない」
だが冰が動く度に鏡の中の青年も同じように付いてくる。
「誰……? どうして……」
周はしっかりと華奢な肩を支えながら静かに言った。
「これはお前だ」
「僕……? ウソ……。だって鏡に映ってるのは大人の知らないお兄さんだもの……。僕はまだ九歳だも……」
「お前は今日の昼間、怪我をしたと言ったろう? その時に記憶がなくなってしまったようなんだ」
「き……おく?」
「鏡に映っているのは俺と、間違いなくお前自身だ。本当のお前は大人になっていて、ずっと俺と一緒にこの家で暮らしていたんだ。その記憶が昼間の怪我をきっかけに失くなってしまった。信じられないだろうが、これは本当のことなんだ」
「僕が……大人……? お兄さんと一緒に住んでた……の?」
「そうだ」
「じゃあ……でもじいちゃんは? じいちゃんは……」
「黄のじいさんは香港にいる。ここは日本の東京だ。お前が日本に来て俺と一緒に暮らしていることを黄のじいさんも知っている」
「日本? 香港じゃない……の?」
「ああ。神かけて嘘はつかねえと誓う。すぐには信じられねえことだらけというのもよく分かっているつもりだ。お前にとっては驚くだろうことも。俺はお前を苦しめるつもりはねえし、できることは何でもしてやる。だから無理をせず、思ったことを何でも俺にぶつけるんだ。怖い、信じられない、どんなことでもいい。泣きたければ思い切り泣いていい。包み隠さず、自分一人で抱え込まず、どんな小さなことでも全部俺に言え。俺は何があってもお前と一緒にいる。どんなことでも受け止めてやる。安心して全部俺にぶつけるんだ」
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