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漆黒の記憶7
「よし、冰。腹もいっぱいになったし風呂に入るか。あったまった方がよく眠れるぞ」
「お風呂? お兄さんの病院の?」
しばらくここで養生すると聞かされた為か、冰の中では入院という意識でいるのかも知れない。ここで寝泊まりすることへの違和感はなさそうであった。
「怪我の方は大したことはなかったからな。さっきお前を診た医者の鄧先生からも普通に風呂に入ったりするのはいいと言われている。だから病院へは戻らずに今夜からは俺の家で過ごしていいとな」
「お兄さんのお家で?」
「そうだ。俺と一緒に風呂に入るか?」
「いいの?」
「ああ、もちろんだ。お前が寝るベッドもあるが、一人で寝るのが怖かったら俺と一緒に寝てもいいんだぜ?」
「だ、大丈夫。もう僕も小学生だし一人で寝れるもん」
冰はモジモジと頬を染めながらも、『あ、でも……』と言って少し遠慮がちに周を見上げた。
「一人で寝れるけど……お兄さんのお隣のベッドがいいな……。ここのお家広いから別々のお部屋だと……ちょっと怖い……かも。いつもはじいちゃんと同じ部屋で寝てるから……」
あまりに可愛いことを言われて周はまたもや破顔させられてしまった。
「分かった。じゃあお前のベッドを俺の部屋に運ばせよう。隣で寝れば怖くねえぞ。それにな、俺のベッドはデカいから、隣に並べずとも一緒に寝ることもできる」
「お兄さんのお布団で?」
「そうだ。嫌か?」
「ううん。お兄さんがいいなら僕は嬉しい……。でもホントにいいのかな……」
「いいに決まってる。それに俺も一人で寝るよりお前と一緒の方が怖くねえしな?」
子供の会話に合わせながらもニッとニヒルに口角を上げて悪戯そうに笑う。そんな周の仕草に冰は頬を染めながら嬉しそうに身を乗り出すのだった。
「お兄さん、大人なのに一人で寝るのが怖いの?」
クスクスと楽しそうに笑っている。
「ああ、大人だって怖い時もあるぞ。だからお前が一緒に寝てくれれば助かる。だが、これは二人だけの秘密だぞ? さっき食事の世話をしてくれた真田にも医者の鄧先生にも誰にも言うなよ? 一人で寝るのが怖いなんて知れたら俺のメンツに関わるからな」
周は面白そうに『しーッ』というゼスチャーを交えながら言う。その仕草が可笑しかったのだろう。冰は元気よく『うん、分かった! お兄さんと僕だけのヒミツね!』と言って満面の笑みを浮かべた。
周にとってはこんなやり取りもある意味新鮮に思えていた。普通に考えれば由々しき事態に変わりはないが、現状を受け止めることも必要だ。仮に冰が元の記憶を取り戻せずとも今ここからまた新たに二人の絆を築いていけばいい。周はそんな心持ちでいたのだった。
だがその前に避けては通れない肝心なことをひとつだけ冰に伝える必要がある。それは彼が本当は大人になっているという事実だ。他はともかく鏡にその姿を映せばごまかしはきかないからだ。
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