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漆黒の記憶6

 そうして食事が済むと、周は食後のジャスミン茶を勧めながら少しずつ肝心な話題を持ち出した。 「ところで冰、お前――日本語は話せるのか?」  冰はデザートの杏仁豆腐をスプーンですくいながら、キョトンとした目で周を見やった。 「日本語?」 「ああ、そうだ。お前と初めて会った時に日本語を話していたのを思い出してな」 「あ、そっか……。あの時は僕、怖いことがあったからドキドキしててよく覚えてないんだけど……。はい、日本語は話せます。じいちゃんがお前はお父さんもお母さんも日本人で、僕も日本人なんだから自分の国の言葉を忘れちゃいけないって。学校でも日本人のお友達とはたまに日本語で話してます」  これも周が聞いたことのある事実と合致している。冰がここを訪ねてきた際に、黄老人が日本人の多い学校に通わせてくれていたと聞き及んでいる。周はこうして少しずつ冰の気持ちを乱さないように気遣いながら、彼の記憶と現実を照らし合わせようと試みていた。 「そうか。だったら今からは日本語で話してみるか」  周が今度は日本語でそう問い掛けると冰もすぐにそれにならった。 「お兄さんも日本語が分かるの?」  スッといとも簡単に日本語に切り替えたところをみると、確かに流暢といえる。 「ああ。俺は親父が香港の人間だが、お袋は日本人だからな。それに仕事の時は日本語で話す方が多いしな」 「そうなんだ。お兄さんのお仕事って……お医者さん……じゃないんだよね?」 「俺は会社を経営している。貿易といってな、世界のいろいろなものを輸入したり輸出したりする仕事だ。輸入ってのは分かるか?」 「うん……いえ、はい! 分かります。香港にはない食べ物とかお洋服とかを外国から運んでくることでしょう? 学校で習ったよ」 「そうか。お前は賢いんだな。勉強は大変か?」 「うん……まあ。でもディーラーの練習よりは大変じゃないから勉強の方が好きかな」  小首を傾げながら照れ臭そうに笑ってみせる。黄老人はこの頃から既にディーラーの技を教え込んでいたのが分かる。 「お前はディーラーの技が使えるのか?」 「うん。じいちゃんのお仕事がカジノのディーラーなんです。それで僕が大きくなったらちゃんとお仕事してお金が稼げるようにって、ディーラーの練習をしてるの。じいちゃんはいつもはやさしけど、練習の時は怖いんだぁ。でも僕の為になるから頑張りなさいって言われてるの」 「そうか。小さいのにえらいんだな。感心だ」  周に褒められて照れ臭そうにしながらも、冰は嬉しそうに頬を染めた。

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