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三千世界に極道の華6

「始末といっても大の男を四人――息子の倫周を入れれば五人だ。そう簡単に始末はできまい。何処かに監禁して放置するにしてもこの寒さだ。眠らされた状態でいるなら一刻も早く捜し出さなきゃ命が危ねえ」 「ああ……。だが、手掛かりが足りねえ……。スマフォのGPSは潰せたとしても、この短時間に冰と一之宮の腕時計やピアスにまで気がつくだろうか」  もしも気がついてそれらも取り上げたとなれば、相手には相当な備えがあり、尚且つそういった犯罪に非常に慣れていると考えられる。  事は一刻を争うのは間違いないが、現時点で動きが取れないのもまた事実であった。 「海外に行ってる親父に知恵を借りるしかねえか……」  鐘崎の父親の僚一は例によってまた海外での仕事を請け負っていて留守である。精鋭の彼がいればどれほど心強いかというところだが、呼び戻すにしても半日は掛かるだろう。まさに八方塞がりの危機といえた。 ◇    ◇    ◇  その頃、紫月らの方では突拍子もない事態に陥っていた。犯人たちはやはりエレベーターに乗ってきた老人と中年男の二人であるに間違いはなかったものの、周と鐘崎が思い描いていたレイ・ヒイラギの誘拐などという単純なものではなかったのである。  皆が意識を取り戻した時には信じられないような場所に連れて来られていた。 「おい……皆んな無事か? つか、ここいったい何処なんだよ」  一等最初に気がついたらしい紫月が側に転がされている皆を揺り起こす。 「紫月さん……!? ああ……皆さんもお揃いですな!」  源次郎が身を起こし、その声で次々に全員が意識を取り戻していった。 「皆んな無事のようだな……」  ひとまずは誰一人欠けることなく元気な様子に安堵するも、周りを見渡せばえらく広くて立派といえる純和風の部屋である。まるで時代劇にでも出てきそうな殿様御殿といった雰囲気だ。しかも奇妙といえる事柄が二つ。まずは強引に拉致されたにもかかわらず、毛足の長い温かなカーペットの上に全員まとめて寝かされていて、ご丁寧に掛け布団のようなものが一人一人に与えられていたということであった。もうひとつはどこからか聞こえてくる雅な琴の音のような音楽だ。 「何だぁ、ここ? いったいどーなってんだよ……」  紫月が立ち上がって窓辺へと寄り、そっと障子を開く。外の景色を目にした途端、呆気にとられたように大口を開いたまま固まってしまった。 「わ……ッ! 何だ、こりゃ……」  眼下に広がっていたのは艶めく街並み――この高さからすると、ここは建物の五階あたりだろうか。一本の大通りを挟んで両脇には雅な和の建物が建ち並んでいる。通り沿いには純和風といった灯籠が煌びやかに点っていて、道行く人々は皆着物姿だ。まさに時代劇の世界にでも迷い込んでしまったような感覚に襲われた。

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