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三千世界に極道の華7

「おいおい、マジでどーなってんだよ……。映画のセット……? つか、冗談抜きでここ何処だよ?」 「うわぁ……ホントだ……。ここって日本……ですよね?」  後から続いて来た冰も驚きに目を剥いている。二人の様子に首を傾げながら、レイと倫周、そして源次郎に春日野と、全員が窓辺から見下ろす光景を目にするなり唖然状態に陥ってしまった。  それもそのはずだ。眼前には今さっきまでいた銀座の街並みからは想像もつかない異世界のような風景が広がっていたからだ。 「すっごい……何ここ!? もしかして僕らタイムスリップでもしちゃったのかな?」  窓から身を乗り出す勢いで倫周がつぶやく傍らで、 「バカやろ……! ンな非現実的な超常現象なんざあるわきゃねえだろうが! だが……確かに変わった世界だ。こいつぁ……まるで江戸吉原じゃねえか」  レイが思い切り眉をしかめながら呆気にとられていた。  まさに彼の言う通りである。そこは誰でも一度くらいは映画などで目にしたような(いにしえ)の時代の遊郭街といった雰囲気に他ならなかったからだ。 「見たところ、ここが一番高い建物のようだな……。対面に同じ高さの邸があるが、それ以外はほぼ三階建てといったところか」  倫周の後ろからレイが外を覗き込むように障子から顔を出す。  そうなのだ。今、皆がいる部屋は街並みの中でも一等立派な造りの建物内にあると思えた。真正面には似たような造りの五階建ての邸があって、やはりこちら側と同様に、その左右には少し低い建物がずらりと並んでいる。街全体の広さも相当なもので、一番端までは霞んで見えないほどである。  ここがいったいどういった場所なのか、誰もがすぐには見当もつかないといったところであった。 「おい、見ろ……! ありゃ花魁道中じゃねえか?」  レイが驚いた声を上げる。 「花魁道中ッ!?」 「ほれ、階下(した)だ」  クイと顎をしゃくるレイを押し退けるようにして皆が一斉に窓の下を見やる。すると夢か幻か、大通りを雅な着物姿の女性が男衆や幼い少女たちを引き連れて優雅に闊歩している行列が確認できた。まさに映画で観る花魁道中そのものだ。 「あの子供らは禿(かむろ)か? いったいどうなっていやがる……。神隠しにでも遭った気分だぜ」 「神隠しってレイちゃん! さっき自分で超常現象なんてないって言い張ったくせにー」  柊親子が肘で互いを突き合いながらそんな言い合いをしている。 「ですが確かに花魁道中そのものですよね。ここが何処かというのは別として、私共は先程エレベーターの中で気を失って、そのまま誰かに連れて来られたということでしょうか」  春日野はここに至るまでの経緯を巡らせている。全員が唖然とする傍らで、源次郎には何やら思い当たる節があるようであった。

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