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三千世界に極道の華8

「もしかしたら……ここは裏の三千世界と言われる場所かも知れません」 「裏の三千世界? 源さん、何か知ってんのか?」  紫月が訊く。 「ええ。以前……そう、今から二十年以上前になりますかな。僚一さんからチラッと聞いたことがあります。我々の住む世界とは完全に隔離された極秘の遊興施設がどこかの山奥に建設される計画があるとかで、当時はまだその実態は明らかにされておらず、海のものとも山のものともつかなかったようです」  計画では江戸吉原の再来のような巨大遊郭街を中心に、賭場や明治鹿鳴館時代のダンスホールなども予定されていたという。加えて、この世界から一歩も出ずとも生活ができるようにライフラインに必要不可欠な商業施設、そして関わるすべての人間が生活できる住居なども建設される計画だったらしい。 「いわば現実世界とは隔離された独自の国家といっても過言ではないような計画だったとか。その後どうなったのかは分からずじまいで、私もすっかりその話は忘れておりましたが、まさか本当に建設されていたとは」 「は! 巨大遊興施設だか何だか知らねえが、現実離れもいいところだな。だがこれだけの街を秘密裏に造ったとなると、相当デカい組織が動いているということだろうな。案外――国そのものが絡んでいたりしてな?」  レイが『フ……ッ』と鼻で笑ったが、あながち冗談ではないかも知れない。 「ここが江戸吉原の遊郭街だとすると、明治鹿鳴館とやらの街並みはまた別にあるのかも知れんな。下手すりゃ巨大カジノなんかもありそうだ。顧客も選んでいそうだな。現代で言うならば、おおかた会員制の高級クラブといったところか」  さすがに年かさがいっているだけあって、レイの理解力と想像力は大したものだ。今の源次郎の話だけで、この世界がどういった目的で作られ、またどういった人物に利用されるのかなどを即座に思い巡らせている。 「だが、大金持ちの酔狂というには度が過ぎているな。それより何より問題はここが何処かってことだ。源次郎さんの話では人里離れた山奥ということだが、明らかに地上じゃねえな」  レイは空を見上げながら皆にも見てみろと顎をしゃくってみせた。 「空がねえだろ? 今夜はいい月が出ていたはずなのに見当たらねえ。雲もなけりゃ風もねえ」 「わ! ホントだ……。ってことは、ここは地下ってことですかね?」  紫月が感心顔でレイを見つめる。 「そうかもな。そもそもこんなでけえ街並みを地上に作りゃ、如何に山奥だろうと人目につく。マスコミのみならず、今の時代にゃすぐにネット上で話題になるだろうよ」 「確かに。けど実際は誰も知らない……。俺も聞いたことねえし、多分遼や氷川も知らねえんじゃねえか? 今の今までこんな施設があったなんてまるっきり知らなかった……」 「つまりここは明らかに”やべえ”場所だってことだ」

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