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三千世界に極道の華22
次の日からはいよいよ勤めに向けての準備が整えられていった。昨夜、主人の男が言っていた通りに衣装合わせから始まり、花魁道中の所作や披露目の手順などが忙しなく打ち合わせされていく。そんな中、賭場の件を打ち明けると、主人の男は面白い案だと言って非常に興味を示してよこした。
「それで、壺振りをやるのはどなたかね?」
男としては当然統括係のレイがやると思ったようで、真っ先に彼を見つめた。ところが名乗り出たのは禿 役の冰である。
「キミが……かね?」
こんなに若い、ともすればまだ少年といっても過言ではないような男に壺振りなどが務まるのかといった疑心暗鬼の視線を向ける。
「こう見えてコイツはなかなかに腕がいいんだぜ。まあ騙されたと思って任せちゃくれねえか?」
レイが太鼓判を押すも男は未だに信じられないといった顔付きでいる。そこで冰お得意の演技の出番である。おとなしく可愛い素振りからガラリと一転した態度で、主人へと食って掛かった。
「分からねえ親父っさんだなぁ。俺はね、面構えがガキに見えるせいでいっつもこうやって苦労してんだ! 俺は孤児だったんだけどさ、育ててくれた親父が博打撃ちだったんだ。貧乏暮らしだったけど食う為に博打の腕を仕込まれて育った。そんじょそこいらの家具師なんかにゃ負けねえ腕は持ってるつもりだぜ?」
ニヤっと不敵な笑みと共に斜に構えて主人を威嚇する。
「お、おや……そうかい……。だったら任せてみるかね」
「そうこなくっちゃ! まあ、ちゃんと禿の仕事もするからさ! 心配しないでよ! 親父っさんが度肝抜くくらいに稼いでやらぁ!」
「ほ……ほほ、これは頼もしい。その大口は嘘じゃなかったと思わせてくれるのを期待しているよ」
「ああ。任せときなって!」
冰が腕まくりをしながらガッツポーズをしてみせる。すると、更にそれを後押しするように、
「中盆 役として私もサポートさせていただきますのでお任せください」
一番の長老である源次郎までがそう言うので、主人も納得したようであった。中盆とは壺振りと客の間を取り持つ仲介役のことで、賭け金の受け渡しなども行う者のことだが、それ以外にも万が一の揉め事や野次などが起こった際にもいち早く冰の側で彼を守ることができるので、源次郎は打ってつけである。
「そうですか。あなたがお側についてくださるのであれば安心ですな。しかし皆さん、いろいろと芸達者であられる。知識も豊富でいらっしゃるし、私の方が驚かされておりますぞ! これはやはり……あなた方をスカウトできて我が茶屋としても棚から牡丹餅だったわけですな! いや、有難い限りです」
主人は上機嫌の様子だ。
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