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三千世界に極道の華23
そんなこんなで花魁との床を賭けた賭場の件は無事承諾されることとなった。ひとまずは予定通りである。
そこで今度は倫周から主人へと必需品の希望が伝えられた。
「ところでお父さん! 彼を壺振りにするにあたって用意してもらいたいものがあるんだけど、いい?」
「ああ、できる限りご要望には応えるつもりだよ。何でも言っておくれ」
「さすがはお父さん! まず、壺振りといえばサラシでしょ? 粋な流しふうの着物も必要だよね。それから刺青っぽいタトゥのシールとかも欲しいな。用意してもらえるかな」
すると主人はもちろんだと言って快諾した。
「なかなかに本格的じゃあないか。これは私が思っていた以上に客の評判になるかも知れんな。もしかしたら遊女たちの方の遊郭を抜く売り上げが期待できるかも知れん」
キミたちを雇って本当に良かったよと機嫌も上々である。そうして用意されたサラシや刺青を使って、早速に冰の壺振り師としてのビジュアルが整えられていった。
「さて――、皆さんの体裁も整ったところで肝心の源氏名を決めましょうかな」
主人は皆を集めると、この世界で使うそれぞれの名前の希望はあるかと訊いてきた。
「特に花魁と禿 のお二方には雅な源氏名が必要だね。下男や髪結 の方々は何でも好きな名にしていただいて構わないよ」
何なら外の世界での呼び名をそのままでもいいと言う。
「源氏名――ね。それじゃ俺は紅椿 でどうだ?」
花魁に抜擢された紫月が少し考え込んでから不敵に笑った。我ながら良い名を思い付いたと得意顔なのだ。
「紅椿か! なかなか良いではないか。風情があるし、花魁にふさわしい」
”紅椿”というのは鐘崎の肩に入っている刺青の紋様である。もしもここで男花魁の噂が広がり、万が一にでも外の世界の鐘崎の耳に届くことがあった場合に、彼ならばその意を嗅ぎつけてくれるかも知れない――そんな願いを込めた紫月の選択であった。
すると禿兼賭場師役の冰も紫月の思いを即座に汲み取ったわけか、自分も周に繋がる名にしようと思ったようである。
「じゃあ俺は――そうだな。紅龍でどうかな。禿には似合わないかも知れないけど、博打打ちとしては合ってると思うんだけど」
周の字 は白龍である。それそのままでもいいのだが、わざわざ本当の字 を暴露する必要もない。名は焔 だから、色的には赤である。そこからの連想で紅龍としたわけだ。
周のイメージは”漆黒の人”だから黒龍でもいいのだが、それだと兄の風黒龍 と同じになってしまうので、ここは”焔の赤”と字 の白龍を合わせた方が無難であろう。
「うむ……。確かに賭場師の名としてはいいが、どちらかというと雅というよりは粋な印象かね。まあ、男娼として本格的にデビューする際に考え直すとして、今はそれでよしとしますかな」
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