503 / 1208

三千世界に極道の華29

 その後、美麗な男花魁が誕生したとの噂が噂を呼び、紫月らのいる茶屋は連日客が増え続けて、あっという間に大盛況と化していった。  さすがに花魁を相手にするにはそれ相当の金も必要となるので、全部が全部花魁目当ての客ばかりではなかったが、それでも一目噂の彼を見ようと興味本位の客も含めて押し寄せる客が後を立たない。それと同時に他の男娼が指名される率もおのずと増えていった。  冰はさすがの腕前で次々に賭場での成果を上げ、花魁との床を賭けた客たちから紫月を守る盾として稼ぎを伸ばし続けた。倫周によって凄みのある男前に変身させられた姿は、元々の可愛らしさを充分に裏切る艶男といえた。それはそれで興味を呼び、花魁に手が届かないならば彼と寝たいと言い出す客も出てくる始末である。だが、店の主人は決して安売りすることなく、賭場と酒の席だけで鰻登りの稼ぎを叩き出していったのである。  結果的に紫月は貞操を守られる形となり、馬の鼻先にぶら下げられているだけの人参の如くいつまで経っても餌にありつけない客たちの心を煽っては、賭場で賭けられる金額もどんどん膨れ上がる。ある種の異常事態となっていった。  そんな状況が続けば、当然不満の声も上がってくるのは必至だ。  男花魁は確かに高嶺の花だが、どうあっても床を共にできないとなれば、それはそれで不味い事態を招かざるを得ない。ここいらで賭場を破って花魁を勝ち取る客を出さなければ暴動が起きかねないことを懸念して、主人からの要望が出されたのは、紫月らがここへ連れて来られて数日が経ったある夜のことだった。 「キミらが来てからうちの茶屋は目覚ましい業績を上げている。正直なところ予想以上で有り難いことこの上ないんだがね。そろそろ花魁をモノにした客が出たという事実も必要なんだ。売上的には文句のつけようがないキミたちにこんなことを頼めた義理ではないが、今宵のお客様には賭場での勝ちを譲ってやっちゃくれないだろうか」  主人はすまなさそうにしながらも頭を下げてそう言った。 「せめてもと思い、今宵のお客様は常識のあるお人をお通しするつもりだ。これまでにも何度かうちの遊女のところに通ってくれている御仁でね、遊び方も心得ていらっしゃるなかなかの男前だ。彼が男色かどうかは分からんのだが、噂を聞きつけて今宵はこの男遊郭の方をご所望なんだ。私の立場を分かってもらえんだろうか」  主人の言うには、仮にその客のと寝るようなことになっても、そうそう失礼な扱いはしないだろう人物を選んだとのことだった。  正直なところ紫月に客を取らせるのは以ての外だが、常識がある人物というなら、ひょっとして外の世界との連絡役を頼める可能性も高い。当の紫月がそれでいいと言うので、皆もひとまずは主人の頼みを受け入れることで合意した。

ともだちにシェアしよう!