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三千世界に極道の華30
その夜、茶屋の主人が連れて来たのは約束通りに常識のある人物のようだった。まずは酒と料理を楽しむ宴から所望とのことで、紫月らは部屋で待機させられていた。本来であれば客を迎えに行く花魁道中も、今宵は客の方で必要ないと断ったという。
「どうやらおいでになったようですな」
廊下からは主人が客を案内する会話が聞こえてきたが、その受け答えからしても品がある常識人のように感じられた。
先に座敷に入って来たのは主人である。しばし廊下に客を待たせたままで彼は紫月らに念押ししにやって来たのだ。
「くどいようですが、くれぐれも言った通りに頼みますぞ。今宵の博打はお客様に勝ちを譲ってやってください」
それだけ言い残すと、客と入れ替えに座敷を下がっていった。
「ようこそおいでくださいました。こちらへどうぞ」
下男役の春日野が丁重に出迎えて客を招き入れる。その姿を見た源次郎と紫月、そして冰は驚きに瞳を見開かされる羽目となった。
「……! あんた……確か……」
「なんと……これは!」
紫月と源次郎が驚きの声を重ねると同時に、男の方はニヤっと不敵に口角を上げてみせた。そう、それは警視庁捜査一課課長の丹羽修司だったからである。
「……に、丹羽君……どうしてキミがここへ?」
源次郎にとっては彼が幼い頃からよくよく見知っているので、呼び方からして”君付け”なわけだ。
「やはりお前さん方だったか。近頃ここの男遊郭に見目麗しい花魁が誕生したともっぱらの噂を聞きつけてな。もしやと思って来てみたんだが――」
驚かされたのは丹羽がここにいるという事実だけではなかった。
「実はな、俺たちは前々からこの裏吉原を探っていたんだ」
「探っていたですと? やはりここには何かキミら警察に探られるような事情があるのですな?」
「まあな。それについては後で詳しく話すとして――俺は任務の為にここの客となり、度々通い詰めてようやく常連と覚えられるようになったんだ。そこへ持ってきて鐘崎の倅と周焔からお前さん方が突然姿を消しちまったと相談を受けてな。ヤツらも親父さんの僚一からここの存在を知ったようで、俺に協力を要請するよう言われたらしい」
「そうだったんですか。ではうちの若と周さんは我々がここに拐われたんじゃないかというおおよその見当をつけてくださっているということですか」
「それを確かめる為にひとまず常連の俺が様子見にやって来たというわけだ。ここは一見 が入れるような場所じゃねえし、如何にヤツらでも紹介なしには手が出せねえ。男花魁が誕生したという噂とお前らがいなくなった時期が重なっていたんでな。可能性は五分五分だったが」
事情はともあれ、この丹羽と会遇できたことは喜ばしい。
「実は我々も今宵は是が非でも花魁にお客様の床のお相手をするようにといわれて、どうしたものかと思っていたところなのですよ」
源次郎の説明に丹羽はなるほどとうなずいてみせた。
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