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三千世界に極道の華37

 その後、ようやくと正気を取り戻した主人が、蚊の鳴くような声で詫びを口にした。 「す、すまなかったね……。だが紅椿……お前さん、すごい技をお持ちだ……」  あまりにも驚いたせいでか、未だ瞬きもできずといったように大きく見開かれた瞳で呆然状態でいる。幼い頃から紫月をずっと見てきてその腕前を知っている源次郎以外は、組員の春日野でさえも初めて見る姐さんの技使いに絶句状態である。むろんのこと他の皆も同様であった。 「あの者たちはいったい何です? お客様ではないようだが」  源次郎が主人の側へ寄って抱き起こしながら問う。さすがに肝が冷えたのか、主人は臓腑を抜かれたような面持ちでポツリポツリと事情を話し始めた。 「実は……私共はあの者たちに店を……いや、この吉原の街全体を乗っ取られ掛けておるのです」  主人の口からは先日丹羽から聞いたそのままの話が語られた。 「私共は江戸吉原の時代から茶屋を営んでいた者の子孫なのです。移り変わる渡世の中で、いつかはあの頃のような花街を再建しようと代々に渡って資金を貯め、受け継がれた夢を実現する為に努力を重ねて参りましたが……」  その夢がようやく叶ったと思った矢先、先程の無法者たちに街ごと占拠されてしまったというのだ。 「あの者たちは吉原とは相反する岡場所を仕切っていた組織の子孫でしてな。当時から我々吉原に対抗心を燃やしておった者たちです。現代になった今、恐ろしいテロリスト集団を味方につけてここへ乗り込んできたのです」  暴力によって脅された吉原の者たちは、やむを得ず従うしか身を守る術がなかったのだという。すべて丹羽から聞き及んだ通りであった。 「お前さん方にも本当に申し訳ないことをしたと思っております。だが、もはや遊女たちだけでは上納金を納め切れなくなり、新たに男色の遊郭を作ることで何とか稼ぎを増やそうということになりました。見も知らぬあなた方を誘拐してきて、強制的に働かせるなど……この私とてやっていることはあやつらと変わりありません。ですがこうするしか方法が思い付かなかったのです」  主人は土下座の勢いで紫月らの前で謝罪を繰り返した。 「そうでしたか。そのような理由がお有りとは」  主人と年の近い源次郎がこれまでの交渉役のレイに代わって聞き手を引き受ける。その方が主人も話しやすかろうとの配慮からだ。 「ご事情は分かりました。して、ここはいったい何処なのです? 見たところ地下であるのは明らかでしょうが」  丹羽が出入りしていたところからして、都内からそう離れてはいないのだろうが、そういえば丹羽本人にもここが地理的に何処であるのかを聞き忘れていたことを思い出したのだ。  主人からの答えは皆を驚かせるようなものだった。

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