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三千世界に極道の華38
「ここは東京湾の真下でございます。あなた方を拐った銀座から程近い埋立地に工事を装った地下道への入り口がございます。そこは工事関係者しか入れないような造りになっておりまして、周囲には建築中の高い囲いがあり、外から見れば長い間放置されたままの建築現場としか映りません。一般の方はおおよそ滅多に近寄ることのない場所でございます」
「東京湾の……。そうでしたか」
ということは、ほぼ真上に鐘崎や周がいることになる。助力を要請するに当たっては好都合と言えた。
「それよりも……紅椿、私はお前さんが心配です。さっきのヤツらが仕返しにやって来るのは間違いない! あやつらは受けた仕打ちを絶対に忘れない無法者の集まりです。きっと誰よりもお前さんをターゲットにしてくることでしょう……」
そうなっても自分たちには紅椿を守ってやることができないだろうと言って主人は涙した。
「如何にお前さんの腕が達つといっても、相手は先程の者たちよりももっと危ない連中を束にしてここへよこすに違いない……。お前さん方に何かあったらと思うと悔やんでも悔やみ切れません!」
主人は意を決したように立ち上がると、すぐにここから逃げてくれと言い出した。
「紅椿! 出入り口までご案内致します! あの者たちが戻って来る前に皆さんは一刻も早くここを出てください!」
だが、紫月はニッと不敵に笑うと、とんでもないと言って主人らを驚かせた。
「それじゃあんたらが困るだろうよ。ヤツらが戻って来たらそれこそ有無を言わさず殺されちまうかも知れねえぜ?」
「致し方ありません! 何の関係もないあなた方を巻き込むわけには参りません!」
やはりこの主人はただの悪党ではなかったようだ。
「心配には及ばねえ。俺らだって事情を聞いちまった以上、あんたらを見捨てて逃げるわけにはいかねえさ。乗り掛かった船だ、どうせならヤツらからこの街を取り戻してやろうじゃねえの」
紫月の言葉に皆一様だと言ってうなずいた。
「紅椿……皆さん……お気持ちは有り難いが……だが本当に危険なのです。生きてここを出られる保障はない……! 短い間でしたが茶屋が遊女や男娼を抱えた時点で私はこれでもお前さん方の親であると思っています。親が我が子を見捨てるわけには参りません!」
主人の言葉からは茶屋を営む者としての誇りと覚悟が感じられた。
「大丈夫だ。俺らを舐めてもらっちゃ困る」
「ですが……」
「あんたが俺らの親なら尚更だ。親を見捨てて逃げるなんざ、そいつぁ子のすることじゃねえ」
「紅椿……お前さん……しかし……」
頑なに首を縦に振らない主人に、紫月はこれからの対策を話して聞かせることにした。
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