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三千世界に極道の華39
「親父 っさん、先ずは地上にいる俺たちの仲間をどうにか理由をつけてここへ呼んじゃもらえねえか? 体裁は下男としてでも客としてでもいい。あんたが雇い入れたことにでもして、すぐに仲間に連絡を取りたい。さっきのヤツらと戦を構えるってんなら、確かにここにいる俺らだけじゃ手に負えねえだろうが、仲間が来れば勝算はある。それこそ事は一刻を争う。俺らを信じて手を貸しちゃくれねえか?」
「紅椿……お前さん方はいったい……」
驚く主人に、『なぁに、単なる物好きの集まりさ』と言って紫月は笑った。その後ろで同じようにうなずく倫周や冰ら皆も意思のある心強い笑顔を見せている。
「俺たちは仁義には厚い野郎の集まりなんでな」
「お任せください」
レイも春日野も不敵に微笑んだ。
そうして主人を説き伏せ、地上の鐘崎らに応援を要請するべく、番頭の男と共に倫周が伝達役の状使いとして出発することとなった。もしもその間に果たし打ちに遭った場合を考慮して、腕の達つ源次郎や春日野は残った方がいいとの思いからだ。
「倫、くれぐれも抜かるなよ!」
父親のレイにハッパを掛けられて倫周がすぐに大門へと向かって行った。
一方、逃げ帰った無法者たちのアジトでも今後の対策に頭を悩まされていたようだ。
「兄貴、ありゃあただの男娼なんかじゃありませんぜ! とんでもなく腕が達ちやがる……」
袖を切られた男が未だ腰の抜けたような状態で半狂乱で訴える。
その切り口を目にした頭らしき男が、なるほどと腕組みしながら口をへの字に曲げて唸っていた。
「確かにな……。切り口からして素人じゃなさそうだ。その花魁ってのは、てめえの鞘から刀を抜き取って袖を落としたってか」
「そ、そうです!」
「ふむ、こいつぁ居合いだな。それも相当な腕の持ち主だ。普通に布だけを切るのも難儀だが、腕には傷ひとつ付いてねえ。人間が着ている状態の着物をこうまで見事に切り落としたとなると……」
頭の男はその切り口をまじまじと見つめながら、苦々しく眉を吊り上げた。
「あそこの茶屋のオヤジは三浦伊三郎とかいったな。ヤツは江戸吉原を仕切っていた会所の末裔だ。当時の四郎兵衛を継承したとか上手いことを抜かしやがって、周りの茶屋の総代気取りでいやがる。あの野郎、まさか俺たちから吉原を取り戻す為に剣客集団でも雇い入れやがったか……」
「剣客集団ですと?」
「その花魁ってのも実のところは用心棒のようなモンで、本当は男娼でも何でもねえんじゃねえか? それを証拠に花魁をモノにした客はこれまでにたった一人というじゃねえか。それだって実際は上手いこと細工されたガセの可能性もある」
「じゃ、じゃあ……あの壺振りも偽物ってことですかい?」
「かも知れねえ。表向きは花魁だ壺振りだと騒いじゃいるが、ヤツらの本当の正体は俺たちを潰す為の剣客って可能性もある」
「ですが兄貴、あの店からの上納金がここ数日でめっきり増えてるのも事実ですぜ」
花魁と壺振りが偽物だとすれば、それだけの稼ぎをどこから捻出しているのかは気になるところだ。
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