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三千世界に極道の華50

 それから三日ほどは危惧していた敵からの襲撃などもなく、平穏な日が過ぎていった。鐘崎が予定通り花魁を指名し続けたので、紫月も安泰である。壺振りである冰には周が用心棒として付くことになったし、ここ三浦屋の中だけで言えば警備は万全といえた。問題はそれを快く思わない敵方の存在である。  元々花魁は高嶺の花故に、特定の客――この場合は鐘崎であるが――が独占し続けたとしても一般の客から不満が上がることはなかったわけだが、敵の目にはそうは映らない。特に鐘崎と正面切って対戦した敵参謀の男からすれば、毎夜大金を叩いて花魁の元に通い続けるなど正気の沙汰とは思えないのも当然か。必ず裏があるはずだと疑いは深まるばかりである。何より賭場での勝負に負けたことで、頭から預かっていった見せ金をすっかり叩いてしまったことで面目が丸潰れとなり、どうにかしてそれを取り返さねばということで躍起になっていた。まあ頭自身は思っていたほど怒るわけではなかったのが幸いだったが、心の内では使えない野郎だと思われているに違いない。気位の高い参謀としては、それが何よりも我慢ならないのだ。 「あの傷野郎……! あれ以来ずっと三浦屋に入り浸りらしいが、どう考えてもおかしい! いくらあの男花魁が気に入ったとはいえ、いったいどこからあんな大金を捻り出していやがる」  頭を前に参謀の男が焦れに焦れていた。 「まあそういきり立つな。しかし連日花魁を独り占めか……まさか身請けでもしようって魂胆か……。その頬に傷のある野郎ってのはどんなヤツだったんだ。客を装った剣客って可能性はねえのか?」  頭の男が訊く。 「その可能性もゼロとは言えやせんが、本当に剣客だとしたら是が非でもぶっ潰してやりてえところですよ!」  どうもこの参謀は頬傷の男、鐘崎に対して訳もなく腹が立って仕方がないらしい。気持ちを抑え切れないわけか、次から次へと罵る言葉が止まらないようだ。 「しゃらくせえ! ありゃあ単なる好き者ってな気がしますがね。ムダにツラが良かったですし、あの傷さえ無けりゃ、こぞって女が群がりそうな腹の立つ野郎でしたぜ! 花魁の方も一目でヤツを気に入ったようで、ヤツにだけは最初っから色目を使ってやがった。互いに一目惚れでもしたってところじゃないですかい?」  参謀の男が「チッ!」と舌打ちをする傍らで、別の子分が意外なことを口にした。 「あっしらもちょいと偵察に聞き込みを掛けてみたんですが、どうもその傷野郎ってのは途方もねえ大金持ちみてえですぜ。なんでも武器商人だとか」 「武器商人だと?」  実にそういった噂を流したのは鐘崎らの策略のひとつなのだが、事情を知らない敵方では聞いたままに信じ込んでいるようだ。 「三浦屋の周辺じゃたいそう噂になってましたぜ。嘘かホントか知らねえが、あっちの方も最高らしく、ツラに色に金と三拍子揃った男前だとかで、花魁の方がすっかり野郎に熱を上げているとか。あんなバケモノみてえな客が現れたんじゃ、当分花魁には手が届かねえだろうって、男色の客たちが嘆いてるそうですぜ」 「ふむ……」  頭の男が渋い表情で腕組みをする。

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