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三千世界に極道の華51

「仮にそいつが剣客ではなく単なる好き者だとすれば、このまま放置しても問題はねえんだが……。花魁を買い続けるにしろ身請けするにしろ、我々にとってはいい金蔓に変わりはねえ」 「ですが頭! あの野郎はおそらく腕の方も達つんじゃねえかと……。俺は実際にヤツを間近で見たわけですが、いけすかねえのは別として……実際あの眼力はただの好き者ってだけじゃねえ気がしました。何ていうか……危ねえ雰囲気なのは確かで、例えるなら鋭い刃物みてえな男でしたぜ」  参謀の男が力説する。 「鋭い刃物……ね。お前がそこまで言うのも珍しいな。それ以前にさっきっから言ってることがおそろしくチグハグじゃねえか。単なる好き者だと言ったかと思や、舌の根も乾かねえ内に今度はただの好き者じゃねえときたもんだ。いったいどっちなんだと訊きたくもならぁな」  この参謀は普段は割合落ち着き払った上から目線で物事を見る男である。何かにつけて自信があるのか、自分以外の周りは皆んな馬鹿の集まりだといった調子で、ともすれば頭にさえ腹の中では小馬鹿にしたようなところもあり、常に余裕のある態度を崩したことがない。そんな彼がこれほどまでに焦れているところをみると、その頬傷の男はやはり逸物含んでいそうな相手なのだろうと思わされる。 「とにかくヤツは只者じゃねえ。相当にヤバイ野郎なのは確かですぜ! もう少し探って損はねえ」  参謀がしつこくそう訴えるので、頭の男も放置していい案件ではなさそうだと思ったらしい。 「うむ……。だったらいっそのこと、その傷野郎をこっちの仲間に引き入れるってのはどうだ。武器商人ってのが本当ならいろいろと使い道もあるかも知れねえ」 「ヤツを仲間にですかい? けど、どうやって……。花魁にイカれちまってるなら素直に言うことを聞くとは思えませんぜ?」 「そこは上手くやらぁな。三浦屋に潜り込ませてあるアイツは何といったか……」 「ああ、田辺ですかい?」 「そう、その田辺だ。ヤツに睡眠薬でも盛らせて、その傷野郎を掻っ攫ってくりゃあいい。女でも与えて骨抜きにしちまえば、その内言うことを聞くだろうよ」 「ですが頭! ヤツは男色ですぜ? 何てったって男花魁を買い続けてるってんですから! よしんばヤツが両刀だとしても、肝心の女をどっから引っ張って来るってんです? 花魁クラスの遊女を掻っ攫や、それこそ三浦屋の親父が黙ってねえでしょうし、何より上納金も滞るってもんです」

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