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三千世界に極道の華63

 その春日野が出掛けてから間もなくして、入れ替わりで周と橘が戻って来た。リビングにはレイが一人で留守番をしていて他の者の姿は見当たらなかったが、とりあえず鐘崎の現状と彼の父親の僚一が既にこの地下施設に入り込んでいることなどが詳しく報告される。時刻は夕暮れ時、ほどなく今宵も街が賑わう時間帯を迎えようとしていた。 「カネが不在になっちまった以上、新たに花魁目当ての客を迎えねばならんだろうが、どんなヤツがやって来るか分からん。冰の賭場で是が非でも阻止して一之宮を守らねばならん。その一之宮の容態だが……ヤツはもう目を覚ましたのか?」 「ああ。ついさっき気がついて、体調的には万全のようだ。よく眠れたらしく清々しい顔をしていやがったが……」  レイが苦笑ながらそう答える。ということは、やはり紫月には強めの睡眠薬が盛れらただけと考えていいようだ。 「カネのことは告げたのか?」 「いや、まだだ。紫月にとっては一大事だろうからな。遼二のことを打ち明けるのはお前さんらが戻ってからと思って、今は倫周が紫月と冰の着付けをしているところだ」 「源次郎さんたちはどうしている?」  ここにはレイが留守番をしているだけで源次郎と春日野の姿が見えないので周がそう尋ねた。 「遼二と紫月が薬物を盛られたのは昨夜花魁の座敷に出された膳の中じゃねえかってことで、今調べを進めているところだ。この三浦屋に敵のスパイが入り込んでいたらしく、源次郎さんはそいつの周辺を洗っている。春日野はそいつを頻繁に訪ねて来ていたという女を尾行すると言って、つい今しがた出て行ったところだ」 「敵のスパイか……。やはりここに入り込んでいやがったわけだな」  そんな話をしていると源次郎が戻って来た。周は鐘崎の現状と僚一と会ったことなどを話すと、僚一への傷のメイクを施す為、すぐに倫周を彼の元へ派遣して欲しい旨も伝えた。 「分かりました。ではすぐに倫周さんと一緒に私が向かいます。それから今宵の花魁のお相手ですが、丹羽君からの連絡で紫月さんのお父上と綾乃木君が来てくれるとのことですので、お二人に客としてお座敷へ上がってもらうよう主人の伊三郎氏にお願い致しました」  それであれば安心である。あとは紫月に鐘崎が拐われたことをどう伝えるかだ。 「それについてはありのままにお話すると致しましょう。紫月さんを気遣って隠し事をするより本当のことを打ち明けて対策を練るべきです」  源次郎が言ったと同時だった。支度の整った紫月が座敷へと姿を現したのに、周と橘、源次郎の三人が揃って彼の名を呼んだ。

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