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三千世界に極道の華85

「はん! てめえら、そこそこ腕は達つようだがこの俺様には敵うまい。まあいい。久々に手応えのあるヤツらと出会ったわ。こいつぁ楽しませてもらえそうだ」  大男はそう言うと、いきなり剣を振りかざし、紫月目掛けて斬り掛かってきた。  カーンッと刃と刃が合わさる音が大通りに響き渡る。受け止めはしたが、さすがに大男の振りかざすだけあって物凄い衝撃だ。 「クソッ! なんちゅう馬鹿力だよ……!」  紫月が顔をしかめてカタカタと剣を震わせている様子に、 「紫月、任せろ!」  すかさず鐘崎も一緒に手を添えて二人で懸命に支えるも、わずかでも気をゆるめれば押し切られそうな勢いだ。 「クソッ! 退きやがれこのデカブツが!」  周が援護せんと大男の背後からその脚に蹴り掛かったがビクともしない。 「おいおい、てめえの脚は鋼鉄かよ……」  思わず苦笑いと共に冷や汗が浮かんでしまいそうだ。鐘崎と紫月、それに周という精鋭が三人掛かりでも持ち堪えるのがやっとという具合である。 「クソ……ッ、人間技とは思えねえ……気を抜くな紫月!」 「ああ……。つか、マジ馬鹿力……! このオッサン、前世は牛魔王かよ……」  ガクガクと腕を震わせながら紫月が口走ったが、正直なところ冗談を言っている場合ではない。  その様子を横目に、もう二人の敵も日本刀を携えていた飛燕と綾乃木相手にニヤりと笑む。その構えを目にした飛燕が、 「ほう? お前さん方も素人じゃなさそうだな」  これは少々本気で相手をしなければと、グッと両脚を開いて形を決める。睨み合う三組を目にしながら、各茶屋に避難した群衆が固唾を呑んでその行く末に胸を逸らせていた。  飛燕と綾乃木の二人を相手に次々と早技の応酬を仕掛けてくる剣士たちが斬り合う傍らで、鐘崎らの方でも苦戦を強いられていた。  刀での立ち回りを紫月に任せて鐘崎と周があらゆる方向から体術を仕掛けていくもビクともしない。さすがにこんな強敵に出会ったのは初めてかも知れなかった。  このまま斬り合いを続ければこちらの体力を削がれるだけである。敵方が傭兵上がりのプロ集団を抱え込んでいるとは聞いていたものの、正直ここまでデキる相手とは思っていなかった。とにかく相手の身長が大き過ぎて、剣や攻撃の届く範囲が格段に違うのだ。せっかくの凄技も届かなければ意味がない。 「ほーれ、どうしたチビ共!」  大男は面白がってガツンガツンと間髪入れずに力一杯高い位置から剣を振りかざしてくる。その度に受け止める紫月の刀も悲鳴を上げながらようやくかわしているといった状況だ。 「クソッ……埒があかねえ……」  紫月は大男の刃を勢いよく振り払うと、鐘崎と周に向かって大声で叫んだ。 「遼! 氷川! 飛天だ! 飛天でカタをつけるぞ!」  大男から逃げるように後方へ数十歩退くと、紫月は利き手とは逆に剣を構えて思いきり屈んでみせた。

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