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孤高のマフィア6

「ありがとうございます! これは自分の名刺です!」  慌てた様子で鞄をまさぐり、名刺を差し出してくる。それと同時に周から受け取った名刺を両の手で大事そうに抱えては、穴が開くほどといった調子でじっと見つめていた。  ”アイス・カンパニー代表取締役、氷川白夜”と書かれた名刺には社の住所と電話番号、ウェブサイトのアドレスなどが載っているが、紙質はしっかりとした厚めで洒落たデザインのものだ。それを食い入るように見つめながらもほんのわずか残念そうに眉を落とす。期待していた情報がそこには書かれていなかったからだ。 「あの……氷川社長。恐縮ですが、もしよろしければ携帯の番号などもお教えいただけたら有り難いのですが……」  おずおずと香山が言い掛けた時だった。タイミング良くかその携帯が鳴ったのに、二人して互いを見合ってしまった。 「ど、どうぞ出られてください」 「すまんな。ちょっと失礼する」  周が応答すると、相手は鐘崎であった。懐から取り出したスマートフォンの先には粋な組紐と見事過ぎるくらいの輝きを放つ宝石が揺れている。彼のような青年実業家が持つスマートフォンに女性が好みそうなストラップというのがイメージできなかったわけか、香山は思わず目を釘付けにさせられてしまった。やり手の男ならば一切の飾りがないシンプルな物を身につけている印象があったからだ。 「おう、どうした。ああ、今はロビーだ。ちょうどこれからメシに出ようとしてたところだ。ああ、じゃあ待ってるから降りて来てくれ」  短い通話を切って「すまねえな」と言う。 「これから仕事の打ち合わせが入っちまったんで失礼するが、気をつけて帰れよ。元気でな」  香山からしてみれば、今彼が手にしているそのスマートフォンの番号を知りたかったわけなのだが、こう言われてはこれ以上引き留めるのはさすがに言い出しにくい。香山は残念そうな顔つきながら、お時間を取らせてすみませんでしたと言って立ち上がった。  その間わずか五分くらいだったろうか、李ら三人は受付嬢のデスクの脇で立ち話をしながら待っていた。例の一件以来顔見知りとなった冰と清美は仲の良い同僚といった感じで世間話をしている。今は昼時なのでランチに行く社員らも多く、人の往来は多いがクライアントはやって来ないからちょうどいいのだ。そうこうしている内にエレベーターから鐘崎が紫月を伴って降りて来た。香山と別れた周も合流して出迎える。 「カネ! 一之宮も。珍しいな、こんな昼間っから」 「よう、氷川。突然に悪いな。ちょうどこっちに出てくる用事があったんだが時間が読めなくてな。予定よりもえらく早く済んじまったんで、お前の顔を拝みがてら昼メシでもどうかと思ってよ」  鐘崎と紫月が汐留を訪れる時は大概がツインタワーの周の邸側にある車ごとペントハウスに上がれる専用エレベーターを使う。まずは家令の真田に挨拶してから連絡通路を渡って社長室へと向かうのが通常となっているのだ。

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