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孤高のマフィア15
そうしてマンションに帰ると、ねんごろにしている男が愛莉を訪ねて来ていた。
「よう! 遅かったじゃねえの」
男はソファの上で寛ぎながら缶ビールを数本開けている。おそらくはもうかなり前から上がり込んでいたのだろう。
この男とは地元を出る前からの顔見知りであったが、帰郷後久し振りに再会してから一気に深い仲になった間柄だ。自称ヤクザと息巻いてはいるが、実のところは半グレのようなものであった。互いに合鍵を渡し合ってからというもの、度々こうして訪ねて来ては床だけを共にして帰っていくのである。
「ちょっとね、しつこいお客に捕まっちゃってー」
「しつけえ客だ? なんかヘンなことされなかったろうなぁ?」
男はニヤニヤとしながら我が物顔で愛莉の肩に絡みついてきた。
「よしてよ、もう! 別にいやらしいこととかはされてないって。ただあんまりにもしつこい話を聞かされてさぁ。それでこんな時間になっちゃったってだけ!」
「ふぅん? 酔っ払いの戯言かよ。おめえも苦労するなぁ」
背中から抱き締めながら愛莉の巻き髪を指に絡み付けて弄んでいる。
「そうだ、ねえアンタぁ」
「ンだよ」
「アンタ、香山文具店って知ってる? 駅前の割と大きな店」
「香山文具店だ? ああ、そういや昔っからあるな。入ったことはねえけどな」
それがどうかしたのかと男は抱き締めていた腕を解いて再びドカリとソファへと背を預けた。
「じつはそこの若旦那がさぁ……」
愛莉も冷蔵庫からソフトドリンクを出してきて男の隣に座ると、先程聞きつけてきた香山のことを話して聞かせた。
「なんでもこないだ東京に行った時に元いた会社の社長に偶然再会したとかで、その男にイカれちゃったらしくてさぁ。アタシが銀座にツテがあるって知ったらその彼について何でもいいから情報が欲しいだのって始まって、しつこいったらないの! っていうより、もう殆どストーカーよ、あれは」
「野郎が野郎に惚れたってか? その香山ってヤツはゲイなのかよ」
「さあ、どうだか。奥さんも子供もいるくせに今更昔好きだった男に執着するなんてどうかと思うけどね」
「ふぅん? そいつ、妻子持ちなのか?」
「女房とは好きで一緒になったわけじゃないから今からでもやり直せるとかなんとかバカ丸出しだったわ。あんまりしつこいから適当に言いくるめて帰したけど、あの様子じゃまた近々店に来そうで憂鬱だなぁ」
クサクサしたふうにドリンクを煽る愛莉を横目に、男の方は企みめいた笑みを浮かべていた。
「案外ちょっとした小遣い稼ぎができるかも知れねえな」
「小遣い稼ぎ?」
「そいつ、香山っつったっけ? 香山文具店といやぁそこそこ老舗だろ? そんな店の若旦那が妻子を放っぽって他所の野郎に入れ上げてるとなりゃあ、いい揺すりのネタになるじゃねえか。ちょっと脅しゃあ、まとまった銭が搾り取れるかも知れねえぜ?」
どうやら男は揺すりで一儲けすることを思い付いたようだ。
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