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孤高のマフィア23

 どうせ泡銭だからという程度の感覚だったのだろうか。だとすれば金にひっ迫しているというわけではないのかも知れない。 「とにかく防犯カメラを見せてもらうぞ」  いくら店を転々としながら営業しているといっても、カメラくらいは設置してあるだろうと鐘崎が迫る。店主の男は素直に映像も差し出したが、彼の言葉通り、売りに来た男はサングラスをかけていて終始うつむき加減でいる。服装も特徴のないありふれたダウンジャケットにズボン、おまけにニット帽を目深に被り手袋まではめていて、はっきりと顔は分からなかった。  ここまで用意周到な犯人だ。車種などが分からないように店先からは離れた位置に車を停めるくらいの頭は働かせていることだろう。車両の特徴を掴むのは難しいかも知れないが、とにかくは付近の防犯カメラを片っ端から当たるしかない。組の若い衆たちが揃ったら早速に人海戦術で動くことにする。 「それで、いくらでこれを引き取ったんだ」  周が訊くと、男は気まずそうに苦笑しながら驚くような安値を口にしてみせた。 「ふん――! 随分とえげつない商売をしやがったもんだな。これを置いてったヤツもそれで納得したってんなら相当な馬鹿だ」  周からしてみれば物の価値を全く分かっていないと、ある意味憤りを隠せないところだが、裏を返せば犯人にとって冰らから奪った貴金属は単なる棚ボタ程度の感覚なのだろうと想像がつく。彼らの目的は金ではなく、里恵子本人か、あるいは冰本人であることが明らかだ。  周は内ポケットから財布を取り出すと、たった今聞いたばかりの質入れ金額を男の目の前へと差し出してみせた。 「コイツは盗品で持ち主は俺たちの仲間だ。本来返してもらって当然のものだが、それじゃアンタが困るだろう。思っている売値とは桁違いだろうが、今回は差し引きゼロで諦めるんだな」  つまり、利益にはならないが損もしないというところである。周にしてみれば店が犯人に払った金額を肩代わりするようなもので理不尽この上ないが、今は盗られた物を取り戻すことの方が重要である。店主の男も惜しそうにはしていたものの、周と鐘崎の威圧感の前では首を縦に振るしかない。まあ、差し引きゼロなら御の字どころか上々なのも確かだ。 「こりゃあどうも……。けど、これじゃ旦那の方が大損っすよね? お気遣いには感謝いたしやすぜ」  男は金を受け取りながらヘコヘコと頭を下げてみせたのだった。

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